知財判例データベース 国家資格試験の既出問題には具体的な表現において最小限の創作性が認められるため、著作物に該当するした事例
基本情報
- 区分
- 著作権
- 判断主体
- ソウル東部地方法院
- 当事者
- ○○○他2(被告人)v. 検事
- 事件番号
- 2011ゴ単1583
- 言い渡し日
- 2012年01月19日
- 事件の経過
- 控訴
概要
344
医師国家試験及び看護婦国家試験の既出問題は、現行医科大学及び看護大学の教科過程で要求される定形化された内容に関するもので、出題者が問題銀行に保存された問題の中から出題問題を選定した後、修正、補完を経て出題するものであるが、具体的な表現において最小限の創作性が認められるため、著作権法により保護される著作物に該当する。
事実関係
被告人は各出版社の代表兼発行人で、被害者の韓国保健医療人国家試験院では出題委員から著作権譲渡同意書を受け取り医師国家試験及び看護婦試験問題に対する著作権を保有しているにもかかわらず、上記の被害者の同意を受けず、「全国医科大学4学年協議会」で復元した2010年医師国家試験問題、2010年看護婦試験問題をそのまま又は一部変形させて本件問題集に複製、収録し、これを製作、配布及び販売することにより被害者の著作権を侵害したという理由で起訴された。
判決内容
法院は、医師国家試験及び看護婦試験既出問題が著作権法により保護される著作物に該当するか否かに関し、著作物とは、人間の思想又は感情を表現した創作物をいい、創作物とは、創作性のある著作物をいい、また、ここでいう創作性とは、完全な意味の独創性を要求するのではないとしても、少なくともある作品が単純に他人のものを摸倣したものであってはならず、作成者自身の独自の思想や感情の表現を含んでいなければならないため、誰が行っても同一又は類似するしかない表現、即ち、著作物作成者の創造的個性が表れない表現を含んでいるものは創作物であると言えないという法理を判示した。そして、法院は、この法理に基づき、医師国家試験及び看護婦国家試験既出問題は、医師又は看護婦として職務遂行能力を備えているかを評価するための問題であり、医科大学及び看護大学の教授が問題銀行に保存された問題の中から出題問題を選定した後、修正、補完を経て試験問題を出題するため、本件試験問題が現行医科大学及び看護大学の教科過程に要求される定形化された内容と不可分の関係にあることは事実であるものの、その出題した問題において質問の表現や提示された答案の表現に最小限度の創作性があるという点は認められるため、本件試験問題は著作権法により保護される著作物に該当すると判断した。さらに、被告人が本件問題集に収録した問題と医師国家試験及び看護婦国家試験既出問題の間に実質的な類似性が認められるか否かについて、既出問題を直接見て書き写したのではなく受験生の記憶をもとに再現したり、インターネットサイトを参考にしてこれを復元し掲載したものであるとしても、著作物の複製に該当し、また、本件問題集の題目と内容も既出問題を収録したものである以上、被告人が本件問題集に収録した問題と実際の既出問題の間に実質的な類似性が認められると判断し、このような判断を根拠に、被告人にそれぞれ罰金1,000万ウォンを言渡た。
専門家からのアドバイス
各種試験の既出問題が公開されていない場合、このような既出問題を配布する行為が著作権侵害に該当するかどうかに関しては、過去から多くの争いがあった。既出問題の場合、教科書又は参考書などの一定部分を抜粋したり変形させる等により構成される側面があるが、著作権法上求められる創作性は、完全な意味の独創性を要求するのではなく、少なくともある作品が単純に他人のものを模倣したものではなく、作者自身の独自の思想や感情の表現を含んでいればよいというのが法院の一貫した見解であり、大学入学予備考査問題、大学別の本考査問題、TOEFL試験問題などに対して著作物に該当すると判断した事例があるため、特別な事情がない限り既出問題が著作権法により保護される著作物に該当するというのが法院の一貫した態度である。
一方、このような既出問題を配布する行為が著作権法所定の「公表された著作物の引用」に該当し、適法なものとして認められるべきであるとするか否かが問題となり得る。しかし、過去には、これに該当するとの趣旨の判例もあったものの、受験生に問題用紙の所持及び流出を許容せず回収したとすれば、既出問題が公表された著作物に該当すると見ることは難しい。また、「公表された著作物の引用」は、教育等の目的において許容されるものであるところ、本件被告人による問題集の配布・販売の態様のように、仮に教育目的のために利用したものであったとしても、営利的な目的が存在するのであれば、自由利用が許容される範囲は非常に狭くならざるを得ないというのが最近の判例の傾向である。
このような状況であるから、日本企業において、各種既出問題を利用し、その出版物を製作及び配布するような場合は、著作権の扱いについて慎重な考慮が必要である。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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