知財判例データベース 権利範囲確認審判で実施者が実施事実を是認したとしても審決取消訴訟段階で実施者の自白が成立したと見られない

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
○○○(原告)v.□□□(被告)
事件番号
2012ホ412
言い渡し日
2012年06月14日
事件の経過
上告

概要

356

積極的権利範囲確認審判で確認対象考案が当該登録実用新案と互いに対比できるほど具体的に特定されているかどうかは、法的判断に関する事項であるため、特許審判段階で確認対象考案の実施者がその実施事実を是認したとしても、審決取消訴訟段階で確認対象考案の特定に関して実施者の自白が成立したと見られない。

事実関係

「ジッパーネクタイノッター」に関する本件登録考案の実用新案権者(被告)は、確認対象考案の実施者(原告)を相手取って、確認対象考案は、本件登録考案の権利範囲に属すると主張して積極的権利範囲確認審判を請求した。これに対し特許審判院は、確認対象考案が本件登録考案と対比できるほど具体的に特定されていることを前提として、確認対象考案は、本件登録考案の権利範囲に属すると判断し被告の請求を認容する審決を下したところ、原告は、これを不服として特許法院に審決取消訴訟を提起した。

判決内容

被告は、原告が審判段階で既に確認対象考案を実施していると自認しているところ、当該実施を自認している以上、確認対象考案が本件登録考案と互いに対比できる程度に具体的に特定されていることも同様に自認したといえることは、当然であるとし、原告は審決取消訴訟段階で確認対象考案の特定に対して争えないと主張した。これに対して法院は、特許審判院での審判手続は職権探知主義が適用されるため、弁論主義の適用があることを前提とする民事訴訟法上の裁判上、自白規定は準用する余地がないと見なすべきであるだけではなく、さらに自白の対象は事実に限るものであって、事実に対する法的判断又は評価は自白の対象になり得ないという法理に基づき、(1)本件において、確認対象考案が当該登録実用新案と互いに対比できる程度に具体的に特定されているかどうかは、法的判断に関する事項に該当するため、特許審判段階で既に原告が確認対象考案を実施しているという事実を自認したとしても、確認対象考案の特定に関してまで原告の自白が成立したとは言えず、(2)確認対象考案が本件登録考案と互いに対比できる程度に具体的に特定されているという法的事項は、原告が確認対象考案をそのまま実施しているという事実の前提になるとみなせるだけの合理的根拠もなく、(3)特許審判院における審判手続と特許法院における審決取消訴訟は、審級に連係したものでもないため、特許審判院における審判段階で原告が確認対象考案を実施しているという事実を自認したとしても、そのような陳述(自白)の効力が本件審決取消訴訟にそのまま及ぶとすることもできないと判断した。そして、特許審判院としては、確認対象考案が本件登録考案と互いに対比できる程度に特定されていない場合、要旨変更にならない範囲内で確認対象考案の説明書及び図面に対する補正を命じる等の措置をしなければならず、また、当該補正の機会を与えたにもかかわらずその特定に不十分な点が残る場合、審判請求を却下すべきであったのに、上記のような措置をとらずに確認対象考案が本件登録考案と対比できる程度に具体的に特定されていることを前提として直ちに本案に関する審決を下してしまったのは、明白な誤謬であるとし、本件審決を取り消した。

専門家からのアドバイス

日本の審判制度と同様、韓国における特許審判手続では職権探知主義が適用されており、審判院は当事者の主張にしばられずに職権で証拠を収集・調査できるようになっている。逆に、特許訴訟手続きでは原則的に弁論主義が採用されており、法院は当事者の自白に拘束され、当事者の自白があればこれをきちんと採択しなければならない。ただし、この場合にも自白の対象は「事実」に限るもので、この事実に対する「法的判断」や「評価」は、当然自白の対象にならず、また、事実に対する自白であっても該当事実が訴訟要件といった法院が職権で調査すべき事項に該当する場合には、自白の拘束力が及ばないのである。

本判決は、(1)「確認対象考案が登録実用新案と互いに対比できる程度に具体的に特定されているかどうか」は「事実そのもの」でなく法的判断をすべきものであるため、そもそも自白の対象には該当せず、(2)特許審判段階で当事者が特定事実を是認したとしても、そのような陳述の効力は特許審判と審級に連係しない審決取消訴訟にそのまま及ぶものではない点を明示したというところに大きな意味がある(ちなみに民事訴訟では一審での自白の拘束力が控訴審にまで及ぶこととなっている)。

ただし、特許法院は、最近他の事案において、積極的権利範囲確認審判において、被審判請求人が確認対象発明を実施しているか否かを職権探知事項としつつ、審決取消訴訟では、被審判請求人がそのような確認対象発明を実施しているかどうかが審決の違法性を判断するための重要な事項に該当するため、これは自白または自白擬制の対象になると判示した例もある(特許法院2012年7月26日言渡2011ホ11255判決)。

審決取消訴訟は、弁論主義であるから、裁判所は自白に拘束され、また、自白を任意に撤回することができないことはもちろんであるが、審判手続きにおいても、陳述内容を不用意に撤回したような場合、禁反言・信義則違反とされる可能性も排除できない。そのため、審判が職権探知主義であることはそのとおりであるが、主張及び自白は、誠実かつ戦略的に行う必要がある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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