知財判例データベース 上位概念で示された化合物が記載された原出願から一部を下位概念で新たに定義した分割出願において、上位概念に下位概念が概念的に含まれるというだけでは不十分である
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- ローム・アンド・ハース電子材料コリア有限会社(原告)v. 出光興産株式会社(被告)
- 事件番号
- 2011ホ4110
- 言い渡し日
- 2012年01月13日
- 事件の経過
- 確定
概要
352
原出願明細書に化合物が上位概念としての一般化学式で記載されている発明のうち、一部を下位概念で新たに定義して分割出願する場合において、分割出願としての下位概念発明が原出願明細書に記載された上位概念発明に概念的に含まれているというだけでは分割出願された発明が原出願明細書に記載された発明であるとは言えず、原出願明細書全体の記載と最初出願当時の技術常識を総合的に考慮して分割出願された発明が原出願明細書に記載されたものであるか、又は記載されたものと同一に見なせるかどうかを実質的に判断しなければならない。
事実関係
被告は「有機電子発光素子及び有機発光媒体」に関する本件特許発明と関連して2001年5月18日原出願をし、これを基礎として2007年8月21日本件特許発明を分割出願して特許登録を受けた。原告は被告を相手取って、本件特許発明は分割出願の要件を備えておらず不適法であり、原出願発明や比較対象発明により新規性又は進歩性が否定されるというなどの主張をして登録無効審判を請求したところ、特許審判院は原告の主張を受け入れず棄却審決を下した。これに対して原告は、分割出願された発明の構成のうち「置換又は非置換の炭素数6ないし40の1価の芳香族基に置換されたα-ナフチル基」という部分(以下「構成3」とする)は原出願明細書や図面に記載されていない内容であって本件発明は不適法な分割出願に該当すると主張して特許法院に審決取消訴訟を提起した。
判決内容
法院は、分割出願制度は一つの特許出願に2以上の発明を含んで「1発明1特許」の特許法規定違背により特許を受けられない発明を分割して別途の出願をすることにより適法に保護を受けられるよう道を開くと共に、これら発明の特許出願時点を当初の原出願の出願時点に遡及させるもので、この時、分割出願された発明の特許請求範囲は原出願の明細書又は図面に記載された発明と実質的に同一でなければならず、原出願明細書又は図面に記載された発明に属さない構成を新たに追加する分割出願は不適法なものであって許容されないという法理を説示した。そして、分割出願において原出願明細書又は図面に記載された発明とは、原出願明細書又は図面に明示的に記載された発明だけでなく、原出願明細書又は図面には明示的に記載されていない事項であっても、当業者が原出願明細書の他の記載や最初出願当時の技術常識に照らして一義的で明確に認識できる事項も含まれ得るものの、原出願明細書に化合物が上位概念としての一般化学式で記載されている発明から一部を下位概念で新たに定義し分割出願することは、これは選択発明の領域にあるものを分割出願するものであって、このような分割出願を認めれば原出願に基づいた他の第三者の選択発明を極めて制限することになるうえ、原出願発明当時、開示されていない事項に対して事後の分割出願でその技術的意義を認めることになり、分割出願制度の趣旨にそぐわないものとなる。であるから、分割出願としての下位概念発明が原出願明細書に記載された上位概念発明に概念的に含まれるというだけでは分割出願された発明が原出願明細書に記載された事項であるとは言えず、原出願明細書全体の記載と最初出願当時の技術常識を総合的に考慮し分割出願された発明が原出願明細書に記載されたものであるか、又は記載されたものと同一にみなせるかどうかを実質的に判断しなければならない。ここで本件発明の構成のうち構成3に対して詳察すると、原出願明細書には上記の構成で定義したα-ナフチル基に置換される「置換又は非置換の炭素数6ないし40の1価の芳香族基」は含まれておらず、このように新しく定義された置換基の組合せに対してその技術的意義や効果に対しても何らの記載がなく、このような置換基で構成される本件特許発明の化合物が原出願明細書に記載された他の置換基の組合せや実施例として記載された物質から把握できるものと同一の化学的性質を持つと見る何らの資料もないという点などを根拠に、構成3は分割出願の過程で新しく追加された事項であると判断し、よって原告の請求を全て認容した。
専門家からのアドバイス
過去、大法院は、選択発明の新規性の判断要件として「先行又は公知の発明に構成要件が上位概念で記載されており、この上位概念に含まれる下位概念だけを構成要件中の全部又は一部とするいわゆる選択発明の新規性を否定するためには、先行発明が選択発明を構成する下位概念を具体的に開示していなければならず、これには先行発明を記載した先行文献に選択発明に対する文言的な記載が存在する場合以外に、その発明が属する技術分野で当業者が先行文献の記載内容と出願当時の技術常識に基づいて先行文献から直接的に選択発明の存在を認識することができる場合も含まれる」と判示しているが、本件判決はこのような基準を選択発明の形式で分割出願がなされた場合における分割出願の適法要件として発明の同一性を判断するところに適用したものである。
本件分割出願の場合、判決で説示されているように、原出願発明の下位概念を発明の骨子とし、その形式は選択発明の形式と一応見ることができるものであるが、本件判決は分割出願が原出願の下位概念を発明の内容とする場合、現出願の明細書に下位概念の用語が記載されていれば、あまり問題視することなく分割出願を認めてきた従来の特許庁実務慣行と異なり、本件分割出願発明が原出願発明の中の一部と同一の発明であるかに対して考察し、分割出願が原出願の下位概念であるという理由だけで原出願発明の明細書や図面に記載された発明であるとか、当業者自明と判断してはならず、具体的に原出願の明細書や図面に記載された事項であるかどうかを一つ一つ実質的に判断しなければならないと言い切った点に大いに意義があり、この点は、日本における上位概念の下位概念化における運用とほぼ同様の考えであると考えられる。本件は、今後の分割出願に関する実務上の参考とすべきであろう。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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