知財判例データベース 審判請求後に同一事実・証拠による他の審判の審決が確定した場合、先の審判請求は一事不再理の原則に違背しない
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院(全員合議体)
- 当事者
- I社(原告、被上告人)v. N社他1(被告、上告人)
- 事件番号
- 2009フ2234
- 言い渡し日
- 2012年01月19日
- 事件の経過
- 確定
概要
332
一事不再理の原則により審判請求が不適法になるかどうかを判断する基準時点は、審判請求を提起した当時と見なければならず、審判請求後に始めて同一事実及び同一証拠による他の審判の審決が確定登録された場合には、当該審判請求は、一事不再理の原則による不適法な請求であるとは言えないものである。
事実関係
原告は、2003年12月2日、「インターネット住所の自国語表記サービスシステム」に関する本件特許発明の特許権者である被告を相手取って、本件特許発明は甲第7、8号証等により進歩性が否定されるという理由で登録無効審判を請求した。これに対し、特許審判院は、2004年10月30日付で、本件特許発明の進歩性などが否定されることはないとし、原告の審判請求を棄却する審決を下した。そして、特許法院も2006年1月12日付で原告の請求を棄却したものである。その後、原告は、これを不服とし上告したが、大法院は、2008年11月13日付で、本件特許発明について甲第7、8号証により進歩性が否定されるとして原審判決を破棄し、特許法院に差し戻した。
一方、訴外Z社は、2006年2月17日付で被告を相手取って本件特許発明は甲第7、8号証等により進歩性が否定されるという理由を挙げて登録無効審判を請求したところ、特許審判院は、2007年8月30日付で訴外Z社の請求を棄却する審決を下し、この審決は、2007年10月6日付で確定した(以下「関連確定審決」とする)。そして、本件差戻し後の裁判において、特許法院は、関連確定審決は本件審判請求に対する審決当時である2004年10月30日には登録されていなかったため、本件審判請求は一事不再理の原則に背反せず、本件特許発明は甲第7、8号証等により進歩性が否定されると判示したため、被告は、差戻し後の当該判決を不服として大法院に上告を提起した。
判決内容
従来、大法院は、旧特許法第163条[1]に規定された一事不再理の原則に該当するかどうかは審判の請求時ではなく、その審決時を基準に判断されなければならないと解釈してきた。すなわち、このような一事不再理の原則は、審判請求時を基準として、その時に同一事実及び同一証拠に基づいた他の審判の審決が確定登録等となってい場合に適用されるのではなく、審決時を基準として、その時に既に同一事実及び同一証拠による他の審判の審決が確定登録等となっていた場合には、当該審判の請求時期が確定された審決の登録前であったかどうかを問わず適用されると判示してきた。
しかし、本件で大法院は、このような従来の大法院判例によれば、同一特許に対して同一事実及び同一証拠による複数の審判請求がそれぞれあった場合に、第1次審決に対する審決取消訴訟が係属中に他の審判の審決が確定登録されると、法院が当該審判に対する審決取消の請求に理由があるとして第1次審決を取り消したとしても、特許審判院がその審判請求に対して再び審決を下す時には、一事不再理の原則によりその審判請求を却下せざるを得えず、とすると、これは関連する審判事件の確定審決の登録という偶然の事情により、審判請求人が自己の固有な利益のために進めてきた手続きが遡及的に不適法になることになり、憲法上保障された国民の裁判請求権を過度に侵害するおそれがあると共に、その審判に対する特許審判院の審決を取り消した法院の判決を無意味なものにするという不合理が発生するものであると判示した。そして、このような理由により、一事不再理の原則により審判請求が不適法になるかどうかを判断する基準時点としては、審判請求を提起した時点と見るべきで、審判請求後に始めて同一事実及び同一証拠による他の審判の審決が確定登録された場合には、当該審判請求を一事不再理の原則により不適法であるとは言えないと判断した。これにより、本件の場合、関連確定審決は本件審判請求当時である2003年12月2日には登録されていなかったため、一事不再理の原則に違反しないという結論は正当であると判断し原告の上告を棄却した。
専門家からのアドバイス
一事不再理の原則は、審判請求の濫用を防止するためのものであるが、その適用範囲を過度に広げると国民の裁判請求権を不合理に制約する結果となり得る。したがって、特許法第163条の文言に忠実に従い、一事不再理の原則に該当するか否かの判断時期について、既存の大法院で示されていた審判の審決時を基準に判断しなければならない旨の判例を変更して、一事不再理の原則は、ある審決の確定登録がされた後に同一事実及び同一証拠によって新しく請求される審判に対してのみ適用され、既に審判が請求され審理が開始された後は、同一事実及び同一証拠による他の審判の審決が確定登録されたとしても、その審判請求を一事不再理の原則に背反した違法なものであるとすることはできないという点を明確にした本件判決は、国民の裁判請求権を保障するという側面で現実に即した妥当な判決であると言えよう。
また、無用な審判の負担を避けるため、同一事実及び同一証拠の無効審判が請求された場合は、一時不再理による主張の他、他の審判事件の確定までその無効審判を中止することを求めたり、併合審理を求めることも一考であろう。
注記
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旧特許法第163条「審判の審決が確定登録したり、判決が確定したときは、何人も、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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