知財判例データベース 音楽サイトの運営者がダウンロードサービス販売を中断した後も、サービス既購入者に継続利用できるようにしたのは作曲者の公衆送信権又は伝送権侵害に該当
基本情報
- 区分
- 著作権
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- ○○○(原告、上告人)v. 株式会社ネオウィズインターネット他2(被告、被上告人)
- 事件番号
- 2010ダ57497
- 言い渡し日
- 2012年01月12日
- 事件の経過
- 破棄差戻し
概要
335
作曲者から著作権侵害中止要請を受けて、インターネット音楽サイトの運営者が自らのサイトからMP3ファイルダウンロードなどのサービス販売を中断したものの、サービスを既に購入した利用者らは継続して利用できるようにした場合、サービス販売・提供中断前の行為による伝送権等侵害とは別途に作曲者の公衆送信権又は伝送権侵害に該当する。また、MP3ファイルのダウンロード、試聴などのサービスを提供しつつ作曲者の氏名を表示せず、「歌詞見る」サービスでのみ作曲者の氏名を他人と誤って表示した行為は、作曲者の氏名表示権侵害に該当する。
事実関係
原告は本件音楽著作物の作曲者であり、一方、被告の株式会社ネオウィズインターネット(以下「被告会社」とする)はインターネット音楽サイトを運営し、MP3ファイルのダウンロード、楽譜提供などのサービスを販売する会社である。原告は被告会社が原告から著作権侵害中止要請を受けて原告が作曲した本件音楽著作物に関するサービス販売を中断したものの、上記のサービスを既に購入した利用者に継続して利用できるようにした行為、及び本件音楽著作物に関して「歌詞見る」サービスの中で作曲者の氏名を他の人と誤って表示した行為は、原告の著作権を侵害するものであると主張し、被告会社に対して損害賠償を請求した。これに対して原審は被告会社の上記のような行為が原告の伝送権、複製権、氏名表示権などを侵害しないと判断したため、原告はこれを不服として大法院に上告したものである。
判決内容
大法院は、被告会社が本件音楽著作物に関するMP3ファイルのウンロード、楽譜提供などのサービスを既に購入した利用者らに対して上記のサービスを継続して利用できるようにした行為について、上記のサービスを既に購入した利用者が著作権法第2条第10号及び第32号[1]に規定されている「伝送」における「公衆」に該当しないと判断した原審と異なり、上記のサービスを購入した利用者は、たとえその範囲が限定されるとしても、多数の者が被告会社の音楽サイトで本件音楽著作物に関するMP3ファイルなどを共通的に使用する「特定多数人」、すなわち、著作権法第2条第32号に規定された「公衆」に該当すると判断した。そして、被告会社が上記のサービスを既に購入した利用者に継続的にサービスを利用できるようにした行為は、上記のサービス販売・提供中断前の行為による伝送権などの侵害とは別に、原告の公衆送信権又は伝送権を侵害するものと判断した。ただし、上記のような行為が原告の複製権を侵害するか否かについては、被告会社が運営する音楽サイトサーバーの利用者購買ボックス又は保管ボックスには購買リストが表示されてはいるが、ファイル自体は別途に購買ボックス等に保管されているのではなく、利用者がMP3ファイルなどをダウンロードする際に上記音楽サイトの音源DBに保存された音源ファイルなどを送る方式が用いられている点、既に購買した利用者が利用者保管ボックスの購買リストにある楽譜データを印刷しようとする時はこれを上記音楽サイトのサーバーアドレスから呼び出して印刷する方式である点に照らして、当該MP3ファイルダウンロードなどのサービスを提供した行為が録音・録画その他の方法により有形物に固定したものとはいえないため、この点については、原審と同様、原告の複製権を侵害するものではないと判断した。[2]
また、大法院は、被告会社が「歌詞見る」サービスを提供する過程で作曲者の氏名を他の人に誤って表示した行為について、原告は本件音楽著作物の作曲者であって作詞者ではなく、歌詞に対する著作権者でないとして原告の氏名表示権を侵害しないと判断した原審と異なり、被告会社が運営する音楽サイトは、「歌詞見る」サービスのみを提供するのではなくMP3ファイルダウンロード、試聴などのサービスを共に提供しており、利用者は上記のサービスを通して音楽を聞き、作詞者、作曲者などを知ることができる点、被告会社の音源提供サービスでは本件音楽著作物の作曲者である原告の氏名を全く表示しておらず、「歌詞見る」サービスでのみ作曲者の氏名を表示するものであって、当該「歌詞見る」サービスにおいて氏名を他人と誤って表示することにより、利用者に上記の著作物に関する作曲者を誤認させるようにしている点に照らしてみれば、全体的に上記の著作物の作曲者が原告と認識され得るなどの特別な事情がない限り、「歌詞見る」サービスで原告の氏名を誤って表示した行為は原告の氏名表示権を侵害するものと判断し、原審判決のうち、被告会社の行為が原告の伝送権及び氏名表示権を侵害しないと判断した部分を破棄した。
専門家からのアドバイス
従前の著作権法では、「公衆」に対する明示的な定義がなかったため、不特定多数人の解釈についてはあいまいさがあった。しかし、現在の著作権法では、「公衆」に対する定義規定として「不特定多数人(特定多数人を含む)を言う」と明示しており、特定多数人も「公衆」の概念に含まれることが明確になり、大法院判例もこれと同じ立場を取っている。この点からみても、本判決で被告会社の行為が原告の伝送権を侵害すると判断したことは至極妥当な結論であると言える。また、複製権侵害については、デジタル化された著作物をコンピュータなど情報処理装置を活用し使用又は伝送する場合、メインメモリなどに一時的に保存される場合まで「有形物に固定」される場合に含ませるかどうかに対する議論があるが、今のところはメインメモリなどへの一時的保存は「複製」の概念に含まれないとする見解が優勢であり、本判決もこのような見解に従ったものと見られる。しかし、2012年3月15日施行された改正著作権法では韓米間自由貿易協定(FTA)を反映して「一時的に有形物に固定するもの」も複製に該当するものと規定しているところ、今後は本件のような場合にも複製権侵害が認められ得ると予想される。
注記
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著作権法第2条(定義)この法律で使用する用語の意味は次のとおりである。
10.「伝送」とは、公衆送信のうち、公衆の構成員が個別的に選択した時間と場所において接近することができるように著作物等を利用に供することをいい、それによりなされる送信を含む。
32.「公衆」とは、不特定多数人(特定多数人を含む)をいう。
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著作権法第2条(定義)この法律で使用する用語の意味は次のとおりである。
22.「複製」とは、印刷・写真撮影・複写・録音・録画その他の方法により一時的又は永久的に有形物に固定し、又は再製することをいい、建築物の場合には、その建築のための模型又は設計図書に従ってこれを施工することを含む。
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