知財判例データベース 新規性のある複合製剤に関する発明において、相乗効果があると確認された場合は進歩性が認められるとした事例

基本情報

区分
特許
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
第一三共ヘルスケア株式会社(申請人)v. 現代薬品株式会社(被申請人)
事件番号
2012カ合1078
言い渡し日
2012年12月10日
事件の経過

概要

373

公知の薬物からなる複合製剤は、各薬物の単純な効果の和である相加効果、各効果を弱める相除効果、各効果を強める相乗効果があるが、先行技術から予想される効果以上の新たな相乗効果は、通常の技術者であってもこれを容易に予想することはできない。そのため、新規性が認められる複合製剤に関する発明において、相乗効果を奏することが確認された場合には、進歩性が認められるものである。

事実関係

申請人は、(i)トラネキサム酸又はこの塩、(ii)L-システイン、この誘導体又はこれらの塩、(iii)L-アスコルビン酸、この誘導体又はこれらの塩を含有し、上記(i)の1日当り投与量が50ないし1000mgであり、(i)及び(ii)の重量比が1:0.21~0.48である色素沈着の予防又は治療のための経口用組成物に対する発明(以下、「本件特許発明」)の特許権者である。一方、被申請人は、製品1タブレットのうち、トラネキサム酸125mg、L-システイン40mg、被膜アスコルビン酸53mg、パントテン酸カルシウム4mg;ピリドキシン酸塩1mgを含有する経口用しみ治療剤を生産・販売している者である。申請人は、被申請人に対し被申請人の製品が本件特許発明を侵害するという理由で侵害差止仮処分を申立て、これに対し被申請人は、本件特許発明に新規性及び進歩性が認められないため、将来その登録が無効になることが明白であるり、本件申請は権利濫用に該当すると主張した。

判決内容

法院は、特許登録した発明が公知公用の既存技術を収集し、総合してなされたところにその特徴がある場合においては、これを総合するのに格別の困難があるか、これによる作用効果が先行技術から予測される効果以上の新たな相乗効果を奏するものと認められる場合でなければ、その発明の進歩性は認められないものと説示した。すなわち、同種の薬効を有する2種以上の公知の薬物を併用するために、複合製剤を得ることは、製薬分野で通常行われるものであるところ、2種以上の薬物を含む複合製剤の効果は、各薬物を単独で含む単一製剤を投与したときに現れる効果の単純な「和」に該当する相加効果を奏する場合が大部分であって、各薬物間の相互作用により各薬物の効果の「和」よりかえって弱くなる相除効果、又は各薬物の効果の「和」より一層強くなる相乗効果が現れたりするかは、実際に試験してみる前には通常の技術者であるとしてもこれを容易に予想できないず、そのため、新規性が認められる複合製剤に関する発明は、それが相乗効果を奏することが確認された場合、進歩性が認められるという法理を説示した。そして、本件特許発明のように一定範囲の含有量を有するトラネキサム酸、L-システイン、L-アスコルビン酸3種の薬物を特定重量比で含有する色素沈着の予防又は治療のための経口用組成物は比較対象発明に開示されていないため、本件特許発明の複合製剤は新規性が認められるところ、本件特許発明の明細書に記載された動物実験結果を見れば、本件特許発明には相加効果を現わす成分だけでなく相除効果をもたらし得る成分も含まれているにもかかわらず、一つの成分からなる単一製剤や2種の薬物からなる複合製剤に比べて相乗効果を示しており、これは比較対象発明に比べても相乗されたものであって、このように互いに相除効果をもたらし得る成分を組み合わせても、さらに相乗効果を現わすという点は通常の技術者が容易に予測し難いものであるとして、本件特許発明の進歩性が認められないという被申請人の主張を受け入れず申請人の特許権侵害差止仮処分申立を認容した。

専門家からのアドバイス

本件判決は特許発明の成分が全て公知となっていたにもかかわらず、その組み合わせによる作用効果の顕著性が認められたという点に意味がある。特に本件特許発明には、組み合わせて使用する場合、薬物の効果をかえって阻害し得る成分が含まれていたにもかかわらず各薬物効果の「和」より高い相乗効果を示したたという点が積極的に考慮されたものと考えられる。

韓国においても、実務上特許発明の進歩性を判断するにおいては、発明の分野と性質が影響し、例えば機械・電気・電子などの分野では主に構成に、化学・遺伝子などの分野では効果に各々重きを置いて発明の進歩性を判断することが多くなる。そのため、特に化学関連発明の出願を行う際には、先行技術に比して効果の顕著性や臨界的意義について十分説明できるよう、出願明細書に実施例として多様な実験結果を含ませておくことが望ましい。

なお、本件では、いわゆる無効の抗弁がなされていることも特徴的である。判例にしたがって、今後は、韓国においても無効の抗弁が増えていくものと思われる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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