知財判例データベース 商標登録が無効になることが明白な場合には、その権利行使は権利濫用に該当し法院はその当否検討のため無効について審理・判断できる
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 株式会社ハイウッド(原告、上告人)v. 株式会社ハイウッド(被告、被上告人)
- 事件番号
- 2010ダ103000
- 言い渡し日
- 2012年10月18日
- 事件の経過
- 確定
概要
362
登録商標に対する登録無効審決が確定する前でもその商標登録が無効審判により無効になることが明白な場合には、その商標権に基づいた侵害差止又は損害賠償などの請求は特別な事情がない限り権利濫用に該当して許容されないと見なければならず、商標権侵害訴訟を担当する法院においても、商標権者の差止請求が権利濫用に該当する旨の抗弁がある場合、その当否を検討するための前提として商標登録の無効に対して審理・判断できるものであって、このような法理はサービスマークの場合にも同様に適用される。
注記
[1]、
(HI WOOD+そのハングル)、
(HI WOODのハングル)
[2]
[3]第6条(商標登録の要件)(1)次の各号の一に該当する商標を除き、商標登録を受けることができる。
3.その商品の産地・品質・原材料・効能・用途・数量・形状(包装の形状を含む)・価格・生産方法・加工方法・使用方法又は時期を普通に用いられる方法により表示する標章のみからなる商標
[4]第7条(商標登録を受けることはできない商標)(1)次の各号のいずれかに該当する商標は、第6条にもかかわらず、商標登録を受けることができない。
11.商品の品質を誤認させ、又は需要者を欺瞞するおそれがある商標
事実関係
原告は、プラスチック発泡建築用モールディング生産業などを営む会社で、建築用非金属製モールディングなどを指定商品とする本件商標[1]及び建築用モールディング販売代行業、建築用モールディング販売斡旋業などを指定役務とする本件サービスマーク[2]を登録した権利者である。一方、被告は2004年3月12日会社設立時から本件商標やサービスマークと酷似する被告標章を使用して建築用プラスチックモールディングなどを生産・販売してきたところ、原告は被告のこのような行為が本件商標及びサービスマーク権の侵害に該当するという理由で被告を相手に商標権侵害差止及び商標権侵害による損害賠償を請求した。これに対して第一審法院は、原告の請求を一部認容したが、原審は原告の商標権及びサービスマーク権は無効であることが明白であるため、これに基づいた原告の差止請求、損害賠償請求などは権利濫用に該当して許容され得ないという理由で原告の請求を棄却したため、原告はこれを不服として上告を提起した。
判決内容
法院は、商標が一旦登録された場合、たとえ登録無効理由があるとしても無効審判により商標を無効とするという審決が確定しない限り対世的に無効となるものではないが、登録無効審決が確定する前であっても商標登録が無効審判により無効となることが明白な場合には、侵害訴訟を担当する法院において、商標権者の請求が権利濫用に該当するという抗弁の当否を検討するための前提として商標登録の無効を審理・判断することができるという法理を示した。そして、法院は、本件商標及びサービスマークを構成している「HI WOOD」や「ハイウッド」のうち、「HI」又は「ハイ」は「高級の、相等の、高い」等の意を有する英語単語「high」の略語又はそのハングル発音であり、「WOOD」又は「ウッド」は「木、木材」等の意を有する英語単語又はそのハングル発音であるとし、さらに、本件商標やサービスマークに付加されている図形により文字部分の意味を相殺、吸収するだけの新しい識別力を有するとも認められないため、本件商標及びサービスマークは一般需要者や取引者などに「高級木材、良い木材」等の意味に直感されると判断した。その結果、本件商標又はサービスマークの指定商品又は指定役務のうち、「木材」に関しては、商標法第6条第1項第3号[3]の指定商品または指定役務の品質・効能・用途などを普通に表示した標章のみからなる商標に該当し、「木材」以外についても、その商品が「木材」で作られている等の誤認を生じさせるものとして、商標法第7条第1項第11号[4]前段のに該当し、各その登録が無効になることが明白であるため、本件商標及びサービスマークに基づいた原告の本件侵害差止、損害賠償請求などは権利濫用に該当して許容されないと判示して上告を棄却した。
専門家からのアドバイス
商標権の侵害訴訟を担当する法院が独自に商標の無効を判断することができるように許容するかどうかは、特許庁と一般法院との権限分配に関する立法者の意図、権利濫用法理の適用の全体的概念、紛争の一回的解決可能性など色々な事項を複合的に考慮しなければならない難しい問題である。従前、商標が登録されれば、たとえ登録無効事由があるとしても、審決による無効確定までは登録商標としての権利をそのまま保有しているから、侵害訴訟手続きでは商標の無効を判断することはできないというのが判決の一貫した見解であったが、現在では、大法院全員合議体判決により、過去の判例までを含めその見解が変更され、審決を待たずとも侵害裁判における無効判断が可能とされている。
一方、特許の場合においても、侵害訴訟を担当する法院が特許の無効に対し判断できるかどうかについて見解が分かれていたが、今年、2012年1月19日の大法院2010ダ95390全員合議体判決を通して、特許が無効審判により無効になることが明白な場合には、法院も特許の無効に対し判断できるという見解に統一された。
そのため、今後、韓国内で商標権や特許権侵害を提起した場合、日本と同様、無効抗弁を争わなければならないケースが増加するものと考えられるため、権利者としては、訴訟提起の前に、自社の権利に無効理由がないか、無効抗弁に耐える十分強固なものであるかをしっかり確認することが重要となる。
一方、侵害訴訟の提起を受けた場合、無効抗弁のみに頼らず、従前同様、無効審判請求による反撃を行うべきである。すなわち、無効が明白かどうか微妙な場合も多くあるはずであるし、たとえ侵害訴訟で無効が明白という判断が下されても、それだけではその権利が対世的にはじめからなかったことにはならないからである。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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