知財判例データベース 商標権者が誤認・混同を引き起こす対象商標の存在を知りながらその商標を使用した場合、不正使用の故意がある
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- C.F.E.B. SISLEY(原告、被上告人)v. ○○○(被告、上告人)
- 事件番号
- 2012フ2227
- 言い渡し日
- 2012年10月11日
- 事件の経過
- 確定
概要
369
商標法第73条第1項第2号で定めた商標登録取消事由を適用するに際し、商標権者が実際に使用する商標が他人の商標との間で誤認・混同を生じているか否かを判断するにあたっては、各商標の外観、呼称、観念等を客観的・全体的に観察するものの、その最終的判断基準は、結局当該商標の使用により他人の商標の商品との間に商品出処の誤認・混同が引き起こされるおそれが客観的に存在するかどうかに置くべきである。また、商標権者が誤認・混同を引き起こすだけの対象商標の存在を知りながらその対象商標と同一・類似の商標を使用した場合には、商標不正使用の故意があると言え、特にその対象商標が周知・著名商標である場合には、その対象商標やその標章商品の存在を認識できなかった等の特別な事情がない限り、故意の存在を推定することができる。
事実関係
被告はハンドバッグ、書類かばん等を指定商品とする本件登録商標「sisley」の商標権者として、使用商標1
2
3
が付されたハンドバッグ等を製作・販売する者であり、一方、原告は1976年頃フランス共和国で設立されて以来、1990年6月頃から韓国国内で対象商標1
及び2
が付された化粧品を販売している者であるところ、原告は被告を相手に本件登録商標が商標法第73条第1項第2号等に該当するという理由で商標登録取消審判を請求した。しかし、特許審判院は原告の請求を棄却する審決をしたため、原告は特許法院に上記の審決の取消しを求める訴えを提起したところ、特許法院は原告の請求を受け入れて上記の審決を取消す判決をし、被告は大法院に上告を提起した。
判決内容
法院は、商標法第73条第1項第2号で定めた商標登録取消事由の1つである、商標権者が実際に使用する商標が他人の商標との間で誤認・混同を生じているか否か、その有無を判断するにあたっては、各商標の外観、呼称、観念等を客観的・全体的に観察するものの、その最終的判断基準は、結局当該商標の使用により他人の商標の商品との間に商品出処の誤認・混同が引き起こされるおそれが客観的に存在するかどうかに置くべきであるという法理を判示した。そして、本件登録商標の商標権者である被告が実際に使用した商標と原告が使用する対象商標は、全体的な標章の構成が非常に類似している点、対象商標は実使用商標の使用当時、既に国内で周知・著名性を獲得していたのに比べ、本件登録商標に対する認識はそれにはるかに未達であった点、実使用商標の使用商品であるハンドバッグと対象商標の使用商品である化粧品は経済的に密接な関連性がある点等を総合してみれば、被告の使用商標は、対象商標との関係で需要者をして原告の業務に係る商品と混同を生じさせるおそれがあると見るに充分であり、また、使用商標と対象商標に共に含まれている花模様の図形が省略された文字「sisley」の商標登録例が多数存在するとしても、それだけの事由では上記のような混同を没却することにはならないと判示した。
また、法院は、商標権者が誤認・混同を引き起こすだけの対象商標の存在を知りながらその対象商標と同一・類似の商標を使用したのであれば、商標不正使用の故意があると言え、特にその対象商標が周知・著名商標である場合には、その対象商標やその標章商品の存在を認識できなかったという等の特別な事情がない限り故意の存在を推定できるという法理を示し、原告の上記のような対象商標の周知・著名性に照らせば、被告に商品出処の誤認・混同を生じさせようとする故意があるものと推定され、被告が対象商標の存在を認識できなかったと見られる事情も認められないと説示して被告の上告を棄却した。
専門家からのアドバイス
商標法第73条第1項第2号による取消事由の具体的な要件は、(1)商標権者が指定商品に登録商標と類似の商標を使用すること(つまり同一の商標を使用していないこと)、(2)需要者をして他人の業務に係る商品との混同を生じさせること、(3)そのような商標の不正使用行為に対する商標権者の故意があること等に分けられるところ、上記の判決は上記の要件のうち、(2)の混同有無に対する判断基準と(3)の商標不正使用の故意が推定される場合に対する既存の法理を再確認した判例である。
商標権者は登録商標を指定商品に使用する権利を独占し第三者が自分の登録商標の指定商品と同一、類似の商品に関して自分の登録商標と同一、類似の商標を使用した場合には商標権の侵害としてこれを排除できる権利を持っているが、いくら登録商標権者であるとしても他人の商標と混同を生じさせるために自分の登録商標をわざと変形して使用することは商標権の目的から外れるものとして許容されない。したがって、商標権者としては自身の登録商標とまったく同じではなく類似の範囲でその登録商標を変形して使用しようとする場合、商標法第73条第1項第2号による取消事由に該当する可能性があるという点を常に念頭に置かなければならない。特に、誤認・混同を生ずるとされる相手方商標が周知・著名である場合には、該当商標の存在を商標権者が実際に認識しているか否かに関係なく、商標の不正使用に対する故意まで直ちに推定されてしまうと判示されている点に留意しなければならない。
逆に、自分の商標が周知・著名である場合には、故意の立証が大幅に緩和され、当該規定による自社商標の類似商標(模倣商標など)に対する取消しが容易となるため、自社商標を守る強力なツールとなろう。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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