知財判例データベース 一事不再理の対世的効力が及ぶ積極的権利範囲確認審判においては、先使用権の存否に対しては判断できない
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- クラモリコリア株式会社(原告、上告人)v. 株式会社ファインツリー商務社(被告、被上告人)
- 事件番号
- 2011フ3872
- 言い渡し日
- 2012年03月15日
- 事件の経過
- 破棄差し戻し
概要
347
商標法第57条の3 は、先使用による商標を継続して使用する権利(以下「先使用権」とする)に対して規定しているが、このような権利は、当事者間における相対効的な商標権行使の制限理由に過ぎず、確認対象標章に対し商標権の効力が及ぶか否かについて判断しその審決が確定した場合は当事者だけでなく第三者にも一事不再理の対世的効力が及ぶ積極的権利範囲確認審判においては、先使用権の存否に対しては判断することができない。
事実関係
原告は「剣道服、柔道服、体操服、テコンドー服」等を指定商品とする本件登録商標2の商標権者であるところ、積極的権利範囲確認審判を請求し、被告が「テコンドー服」に対して使用している確認対象標章3は、本件登録商標と外観、呼称が同一・類似であり、指定商品も同一であるから、本件登録商標の権利範囲に属するものとであると主張した。これに対して特許審判院は当該請求を棄却する審決を下し、特許法院も確認対象標章に対し商標法第57条の3で定めている先使用権があるなどの理由によりその請求を棄却したため、原告(上告人)は、これを不服として大法院に上告したものである。
判決内容
大法院は、まず、商標権の積極的権利範囲確認審判の主旨について、審判の対象としている確認対象標章に対し商標権の効力が及ぶか否かを確認する権利確定を目的としたものであり、その審決が確定した場合、審判の当事者だけでなく第三者にも一事不再理の対世的効力が及ぶものであると説示した上で、積極的権利範囲確認審判の被請求人が確認対象標章に関して商標法第57条の3で定める先使用権を有しているという事実は、当事者間における相対効的な商標権行使の制限事由となるだけであって、商標権の効力が及ぶ範囲に関する権利確定とは関係がないため、商標権侵害訴訟でない積極的権利範囲確認審判において先使用権の存否に対してまで審理・判断することは許容されないという法理を示した。そして、被告に先使用権があるという理由で確認対象標章が本件登録商標の権利範囲に属さないと判断した特許法院の判決には、権利範囲確認審判に関する法理を誤解した違法があると判断した。また、大法院は、2007年1月3日改正された商標法により先使用権に関する第57条の3の規定が新設され、その付則第7条において、第57条の3の改正規定は2007年7月1日以降最初に他人が商標登録出願をして登録される商標に対し先使用者が該当要件を備えた場合から適用されるものと定められているため、2007年7月1日以前である2006年3月10日出願され登録された本件登録商標に対しては、上記の規定が適用されないものであって、特許法院の判決は商標法第57条の3の適用時期に関する法理においても誤解したものと判断した。結局、大法院は、これらの理由により、特許法院の判決を破棄した。
専門家からのアドバイス
これまでの大法院判例の見解によると、権利範囲確認審判は登録された商標権相互間、又は登録商標と未登録商標相互間に抵触関係があるかどうかを判断するものとして単純に同一又は類似如何を確認する事実確定だけではなく、権利の効力が及ぶかどうかを確認する権利確定までを目的とするもので、審判対象である確認対象標章が商標法第51条で定めている商標権の効力の制限事由に該当するかどうかに対する審理及び判断も行われるべきであるとしていた。
そのため、一見、本件における大法院の判断は、過去の大法院判例の見解と相反するように見えるが、商標法第51条で定めている商標権効力の制限事由は、公益的見地及び商標法上の商標保護の目的に照らし、特定人に商標権として独占させるに適していないというなどの理由による対世効的効力を有する制限事由である一方、本件で問題とされた商標法第57条の3で定められる先使用権による商標権行使の制限事由は、商標登録権者と使用権者という当事者間の相対的効力に限った制限理由であるという差があるため、権利範囲確認審判も確定すれば一事不再理の対世的効力が発生するという点を考慮すると、商標権行使の制限事由の種類によって審理対象になるかならないかを区別して判断した本件判決の結論は一応は、法理論的に至極妥当であろう。ただし、権利範囲確認審判における先使用の抗弁を一切認めないとなると、訴訟経済的に問題があるのは事実で、権利範囲確認審判の制度的役割をより広げるためのなんらかの「運用の妙」が必要ではないかと思われる。
日本企業において、積極的権利範囲確認審判を請求する、あるいは、請求された場合、商標法57条の3による先使用権の抗弁をどのように扱うか、熟考を要する事例であろう。
注記
-
商標法第57条の3(先使用による商標を使用し続ける権利)(1)他人の登録商標と同一又は類似の商標をその指定商品と同一又は類似の商品に使用する者であって、次の各号の要件をすべて満たした者(その地位を承継した者を含む)は、該当商標をその使用する商品に対して継続して使用する権利を有する。
- 不正競争の目的なく他人の商標登録出願前から国内において継続して使用していること
- 第1号の規定により商標を使用した結果、他人の商標登録出願時に国内需要者の間にその商標が特定人の商品を表示するものであると認識されていること
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