知財判例データベース 単一で継続的な犯意で繰り返し行われた同一著作物への侵害行為は包括して一つの犯罪が成立するとした事例
基本情報
- 区分
- 著作権
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- ○○○他1(被告人)v. 検事
- 事件番号
- 2011ド12131
- 言い渡し日
- 2012年05月10日
- 事件の経過
- 破棄差し戻し
概要
355
著作財産権侵害行為を常習的に複数回にわたり犯した場合、原則的にはそれぞれ別個の罪を構成する。また、著作権者が同一であっても著作物ごとに侵害される法益が異なるため、それぞれの著作物に対する侵害行為もそれぞれ別個の罪を構成する。逆に、単一で且つ継続された犯意の下で同一の著作物に対する侵害行為が一定期間繰り返して行われた場合には、包括して一つの犯罪が成立すると見ることができる。
事実関係
被告人1はインターネットファイル共有ウェブストレージサイトを運営しており、これを通じて著作財産権の対象であるデジタルコンテンツが不法流通していることを知りながらも、姓名不祥の会員に数万件に至る不法デジタルコンテンツをアップロードさせた後、多数の会員にこれを数十万回にわたりダウンロードさせることにより、著作財産権の侵害を幇助し、また、被告人2株式会社も、その代表理事である被告人1が上記のように被告人2会社の業務について著作権法違反の幇助行為をしたため、両罰規定の適用対象として起訴された。
判決内容
法院は、常習犯とは、ある基本的構成要件に該当する行為をした者がその犯罪行為を繰り返して行う習癖、即ち常習性という行為者的属性を備えたと認められる場合に、これを加重処罰の事由とする犯罪類型の一つであるが、常習性がある者が同じ種類の罪を繰り返し犯したとしても、常習犯を別途の犯罪類型として処罰する規定がない限り、そのそれぞれの罪は原則的に別個の犯罪であって競合犯[1]として処断するものであると述べた上で、著作財産権侵害行為は著作権者が同一であっても著作物ごとに侵害される法益が異なるため、それぞれの著作物に対する侵害行為は原則的にそれぞれ別個の罪を構成するという法理を説示した。そして、著作権法は、著作財産権侵害罪を親告罪と規定し、営利のために常習的に上記のような犯行を行った場合には告訴がなくても控訴を提起することができると規定しているものの、常習的に著作財産権侵害罪を犯した場合であっても、これを加重処罰するという規定は別途に設けていないため、複数回にわたり著作財産権侵害罪を犯したことが常習性の発現によったものであるとしても、これは原則的に競合犯と見るべきものであって、一つの罪で処断される常習犯とすべきではなく、よって被告人に「営利目的の常習性」が認められるとしても被告人の侵害行為を包括して一つの罪とみなすことはできない。また、他の側面からみても、上記の二つのサイトを通して流通させた多数著作権者の多数著作物全体についての被告人の侵害行為は、それぞれ異なる著作物に対するもので、各著作物ごとに侵害される法益が異なるため、これを包括して一つの罪として見ることはできないとし、結局、被告人の侵害行為全体を一つの包括一罪と判断した原判決を破棄した。
専門家からのアドバイス
過去、インターネットファイル共有ウェブストレージサイトと関連して著作権侵害の罪数が問題になった事案(釜山地方法院2010ノ2180事件)において、著作権法違反行為と著作権法違反幇助行為はその行為態様が異なるので、それぞれの行為を包括して一つの罪に該当すると見ることはできないと判示しつつも、ただし行為態様が同一であるのなら、多数著作権者の多数著作物全体に関する被告人の著作権侵害行為は全体を包括する一つの罪に該当するという趣旨の判示がなされた判決がある。本件判決は行為態様だけでなく、侵害対象著作物がそれぞれ異なるのであればこれもそれぞれ別個の罪を構成するという点を大法院が明示した点意義があると言えるものである。
ちなみに、多数の著作権侵害行為が包括一罪と認められるとすると犯罪の数は1個と評価されるのに対し、それぞれ別個の罪を構成すると認められる場合はいわゆる「実体的競合」に該当して、その刑が加重される。即ち、著作権法は著作権侵害罪に対して5年以下の懲役又は5千万ウォン以下の罰金の刑を定めているところ、仮に本判決のように被告人による複数の行為が著作権侵害罪の実体的競合と評価されるとすると、7年6ヶ月以下の懲役又は7千 5百万ウォン以下の罰金に処され得ることとなる。また、包括一罪の場合には、包括一罪を構成する一部の行為に対する有罪判決が確定した後は、その有罪判決の言渡以前に行われた行為について後日発覚したとしてもこの部分については別に処罰を受けることはないが、実体的競合に該当する場合には、既に受けた処罰とは関係なく、後で発覚した部分に対しても再度処罰を受ける可能性があるという差がある。
注記
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複数の犯罪を犯した者
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