知財判例データベース 選択発明の進歩性が認められるためには、先行発明が有する様々な効果中の一部に質的・量的な差が認められればよい

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
韓美薬品株式会社(原告、被上告人)v. イーライリリーアンドカンパニーリミテッド(被告、上告人)
事件番号
2010フ3424
言い渡し日
2012年08月23日
事件の経過
破棄差し戻し

概要

365

選択発明の進歩性が認められるためには、選択発明に含まれる下位概念全てが先行発明が有する効果と質的に異なる効果を有しているか、質的な差がなくても量的に顕著な差がなければならない。このとき、選択発明の発明の詳細な説明には、上記のような効果に関連して質的な差を確認できる具体的な内容や量的に顕著な差があることを確認できる定量的記載がなければならない。一方、選択発明に様々な効果がある場合において、先行発明に比べて異質的であるか量的に顕著な効果を有するとするためには、選択発明の全ての種類の効果でなく、その中の一部でも先行発明に比べてそのような効果を有すると認められれば充分である。

事実関係

被告は「薬剤学的化合物」に対する本件特許発明の特許権者であり、本件特許発明の請求項2は「オランザピン」化合物(「本件第2項発明」)を特許請求範囲としている。これに対して、原告は、本件特許発明は「ベンゾジアゼピン誘導体」に関する比較対象発明1に比べて新規性及び進歩性がなくその明細書の記載要件も充足していないため、その登録は無効であると無効審判を請求したが、特許審判院は審判請求を棄却した。そのため、原告は、審決取消訴訟を提起したところ、特許法院は本件第2項発明が比較対象発明1に比べて進歩性があると言えないとして原告の請求を認容したため、被告は大法院に上告した。

判決内容

法院は、先行又は公知の発明に構成要素が上位概念で記載されており、上記の上位概念に含まれる下位概念だけを構成要素の中の全部又は一部とするいわゆる選択発明の進歩性が否定されないためには、選択発明に含まれる下位概念全てについて、先行発明が有する効果と質的に異なる効果を有しているか、質的な差がなくても量的に顕著な差がなければならず、このとき、選択発明の発明の詳細な説明には、先行発明に比べて上記のような効果があることが明確に記載されていなければならないと判示した。そして、上記のような効果が明確に記載されているとするためには、選択発明における発明の詳細な説明に質的な差を確認できる具体的な内容や量的に顕著な差があることを確認できる記載がなければならないとした。また、法院は、選択発明に様々な効果がある場合において、先行発明に比べて異質的であるか、量的に顕著な効果を有すると言うためには、選択発明の全ての種類の効果でなく、その中の一部でも先行発明に比べてそのような効果を有すると認められれば充分であると判示した。そして、法院は、本件特許発明の進歩性を判断した結果、比較対象発明1にはオランザピンの上位概念に該当する化合物の一般式が記載されているため、本件第2項発明は比較対象発明1の選択発明に該当するとした上で、本件第2項発明のオランザピンと、比較対象発明1に具体的に開示された化合物のうち、オランザピンに最も類似する化学構造を有するエチルオランザピンの効果を比べてみれば、オランザピンがエチルオランザピンに比べて顕著に優秀な精神病治療効果を有するという効果は断定し難いものの、コレステロール増加副作用軽減効果については、比較対象発明1にはエチルオランザピンがコレステロール増加副作用減少の効果を有するという点に関する記載や暗示がなく、通常の技術者がエチルオランザピンが当然そのような効果を有すると予想できるものでもない反面、本件特許発明の明細書にはコレステロール増加副作用減少効果に関する具体的な内容が記載されており、さらに記録によればオランザピンがエチルオランザピンと比べてコレステロール増加副作用減少という効果を実際に有すると認めるに充分であるため、本件第2項発明であるオランザピンは、そのさまざまな効果のうち、エチルオランザピンと比べて、コレステロール増加副作用減少効果という点で異質的な効果を有していることが認められるとし、結局、本件第2項発明は、比較対象発明1によってその進歩性が否定されないと判断し、原判決を破棄、事件を特許法院に差し戻した。

専門家からのアドバイス

選択発明とは、先行発明に構成要件が上位概念で記載されている状態で、上記の上位概念に含まれる下位概念を構成要件の全部又は一部とする発明を言い、主に化学発明の場合によく問題となる。従前、大法院は、選択発明の進歩性が認められるためには選択発明に含まれる下位概念全てについて、先行発明が有する効果と質的に異なる効果を有しているか、量的に顕著な差がなければならず、このとき、選択発明の発明の詳細な説明には、先行発明に比べて上記のような効果が明確に記載されなければならないという法理を示している(大法院2003年4月25日言渡2001フ2740判決、大法院2007年9月6日言渡2005フ3338判決等)が、選択発明にさまざまな効果がある場合、そのすべてが先行発明に比べて異質又は量的に顕著な効果を有している必要があるか否かについては、依然として議論があった。

本判決の場合、選択発明にさまざまな効果がある場合において、先行発明に比べて異質又は量的に顕著な効果を有すると言うためには、選択発明の全ての種類の効果でなく、その中の一部でも先行発明に比べてそのような効果を有すると認められれば充分であると判示したものであり、今後選択発明の異質的効果による進歩性認定如何が問題になる場合、有用な参考資料で活用できるものと見られる。

ただし、これと同旨の判例として、大法院2003年10月24日言渡2002フ1935判決などもある一方で、特許法院2008年1月18日言渡2006ホ6303判決(大法院2009年10月15日言渡2008フ736判決で確定)では、「選択発明を先行発明に比べて特別かつ顕著な効果を有すると評価するためには、選択発明が有する効果全体を総合的に考慮しなければならないため、顕著性が認められる効果以外の残りの効果が先行発明に比べて顕著に悪ければ選択発明の効果が先行発明に比べて特別かつ顕著であるとは言えず、残りの効果も少なくとも先行発明の効果と類似の程度にならなければならない」と判示しており、形式的に一部の効果が優れているからそれで足りると判断することは早計であろう。

いずれにせよ、選択発明の進歩性を判断する場合には、その効果の異質性又は顕著性が議論になることから、その出願に当たっては、先行技術と比して、どのような効果を有しているのか発明の詳細な説明の中で明確かつ定量的に記載しておく必要がある。

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