知財判例データベース 「adidas」の三本線は指定商品の特定位置に配される場合、「位置商標」として認められるとした事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院(全員合議体)
当事者
アディダス・アクツィエンゲゼルシャフト(原告、上告人)v. 特許庁長(被告、被上告人)
事件番号
2010フ2339
言い渡し日
2012年12月20日
事件の経過
破棄差し戻し

概要

371

韓国商標法における商標の定義に照らせば、一定の形状や形が指定商品の特定位置に付されることにより自他商品を識別するようになった標章(いわゆる「位置商標」)は、商標の一種として認められるものである。そして、標章の全体的な構成、商標の各部分に使用された線の種類、指定商品の種類及び特性等に照らし、出願人の意思として指定商品の形状を表示し位置商標としての説明の意味を付与したにすぎないことが容易に把握できる場合、その部分については、標章自体の外形をなす図形ではないと理解しなければならない。

事実関係

原告は、本件出願商標[1]の三本線が出願前、既に識別力を取得したものであると主張し、スポーツシャツ、スポーツジャケット、プルオーバーを指定商品として本件商標を商標登録出願したところ、特許庁、特許審判院は、本件商標は使用により識別力を取得したと認めるには不十分であるとして原告の審判請求を棄却し、続く審決取消訴訟でも同一の趣旨で原告の請求が棄却されたため、大法院へ上告された。

判決内容

特許法院は、本件出願商標は一点鎖線で表示された運動服の上着の形状にわき腹から腰まで続く三本の太線が結合した図形商標であり、運動服の上着の形状部分はその指定商品の一般的な形状を現わしたものに過ぎず識別力がなく、三本の太線の部分も独立して識別力がある図形ではなく、商品を飾るための模様の一つ程度と認識される程度である旨判示した。

これに対して大法院は、まず、商標法(2011年11月2日に法律第11113号に改正される前のもの)第2条1項第1号による商標の定義規定に照らせば、記号、文字、図形のそれぞれ又はその結合が一定の形状や形をなし、これら一定の形状や形が指定商品の特定位置に付着されることにより自他商品を識別できる商標(いわゆる「位置商標」)も商標の一種として認められるものであって、韓国において商標出願・審査の過程で出願人が位置商標という趣旨を明示する手続や、当該指定商品の形状表示は商標権が行使されない部分である旨を明示する手続規定が設けられていないという事由は、当該位置商標認定の妨げにならないとし、当該法における商標の定義として、位置商標が保護され得るものであることを判示した。その上で、位置商標においては、指定商品に一定の形状や形などが付される特定位置を説明するために、指定商品の形状を表示する部分が必要とされるものであるところ、標章の全体的な構成、標章の各部分に使用された線の種類、指定商品の種類及びその特性などに照らして、出願人の意思が指定商品の形状を表示する部分に対する上記のような説明をしているだけであることが容易に知り得る限り、この部分(一点鎖線部分)は、位置商標の標章自体の外形をなす図形でないと理解しなければならないと説示し、従前、指定商品の形状を表示する部分の具体的な意味を確かめず、一律的に上記の部分が標章自体の外形をなす図形であると見て、これを含む商標はその指定商品の形状を普通に使用する方法で表示した商標に該当するという趣旨で判示した過去の大法院の判決を全て変更した。

そして、上記のような法理に基づき、大法院は、本件出願商標において一点鎖線で表示された上着形状の部分と三本の太線の部分とは、互いに明確に区分されており、また、その指定商品はスポーツシャツ、スポーツジャケット、プルオーバーとして全て上着類に属するため、本件出願商標の全体的な構成及び標章の各部分に使用された線の種類、指定商品の種類及びその特性などに照らしてみれば、本件出願商標を出願した原告の意思は、上記のように指定商品の形状を表示する部分に対して三本の太線が付される位置を示すための説明をしていることが容易に分かり、原告も本件出願商標の審査過程において一点鎖線で表示した上着形状は三本の太線が正確にどこに表示されるかを示すための部分を示したものであるという趣旨を明らかにしていることから、本件出願商標は、上記の三本の太線が指定商品のわき腹から腰までの位置に付されることにより自他商品を識別するようになる位置商標であって、上記の一点鎖線部分は本件出願商標の標章自体の外形をなす図形ではないと見ることが相当であるとし、原審判決を破棄し事件を特許法院に差し戻した。

専門家からのアドバイス

本件大法院判決は、WIPOで2006年から本格的に議論されてきた「位置商標」を商標法上の商標の定義をもって電撃的に肯定したという点で非常にインパクトの強いものであり、これにより、標章に表示された指定商品の形状部分の具体的な意味を確かめることなく、一律的に上記の部分が標章自体の外形をなす図形と見なして位置商標の概念を否定してきた従来の大法院判決は全て変更された。

さらに、大法院は、韓国の商標出願および審査過程で出願人が位置商標である旨を明らかにする手続または権利不要求手続(いわゆるディスクレーマー)といった制度が設けられていないという理由をもって「位置商標」を否定することはできないとも判断しており、今後は、特定の標章を商品の一定の位置に付することにより識別力を得ている場合、簡単な図形など標章自体として固有の識別力を発揮していないとしても、「位置商標」として商標登録が認められるようになるものと思われる。

実務的に、どのような手続きによって確立していくのか、韓国特許庁の対応は現時点で不透明であるが、いずれにせよ「位置商標」による保護がなされる途が開けたわけであり、これまで商標化を断念していたような標章についても再考する必要があろう。

なお、日本においては、「位置商標」について、法改正による保護を念頭とした議論が行われている。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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