知財判例データベース 職務発明継承の規定がない場合、従業員の継承意思の明示的表示又は暗黙的意思が追認できなければならない
基本情報
- 区分
- 職務発明
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- ○○○(被告人、上告人)v. 検事(被上告人)
- 事件番号
- 2010ド12834
- 言い渡し日
- 2011年07月28日
- 事件の経過
- 破棄差し戻し
概要
324
職務発明の継承に関する明文の契約や勤務規定がない場合、職務発明に対して特許を受ける権利が発明者である従業員から使用者である会社に継承されたものと認めるためには、特許を受ける権利を会社に継承しようとする従業員の意思が明示的に表示されるか、又はこのような従業員の暗黙的意思を追認できる明白な事情が認められなければならない。
事実関係
被告人は被害者会社の常務理事及び企画チーム長として在職しつつ自分の職務と関連して「3D立体ゲーム専用コントローラー」に関する発明(以下「本件発明」という。)を完成した。本件発明に対する特許出願は、最初は被害者会社の名義で行なわれたが、その後、被告人は出願人の名義を被告人に変更した。一方、被害者会社には職務発明の継承に関する明文の契約や勤務規定はなかった。検事は上記のような被告人の行為が業務上背任に該当するという理由で被告人を起訴し、原審法院はこれに対して有罪を認め、被告人はこれを不服として上告を提起した。
判決内容
本件の主な争点は被害者会社が本件発明の発明者である被告人から本件発明に対して特許を受ける権利を適法に継承したかどうかであった。大法院は、使用者の職務発明完成に関する寄与を考慮する一方、発明者である従業員の権利も保護する方向で関連条項を規定している発明振興法の立法趣旨に照らしてみれば、従業員の意思が明示的に表示されたか、又は暗黙的意思を追認できる明白な事情が認められる場合以外には、職務発明に対してその特許などを受ける権利や特許権などを使用者に継承させる合意が成立したと容易に認めることができないという法理に基づき、被告人が本件発明を完成した当時、被害者会社には職務発明の継承に関する明文の契約や勤務規定はなかった点、本件発明を開発中であった被告人の提議により被害者会社の代表理事が被告人から被害者会社の持分51%を譲り受けて代表理事として就任したとしても被害者会社と被告人の間に予め本件発明に対して特許を受ける権利を継承するようにする暗黙的合意があったと断定し難い点、本件発明の完成後にもその特許を受ける権利に関する被告人の譲渡意思が明示的に表示されたことを認めるだけの証拠がない点、本件発明に対する特許出願費用を被害者会社が負担したとしてもこれは被害者会社自らの利益のための行為に過ぎず、その特許を受ける権利に関する譲渡合意の成立を追認できるだけの合理的な事情であると言えない点、補償に対する何らの言及がないことはもちろん資金事情の悪化で被害者会社から正当な補償を受けることを期待することさえ難しい状況で被告人に本件発明に対して特許を受ける権利を被害者会社に譲渡する暗黙的意思があったと容易に追認できない点などを考慮すれば、被害者会社は被告人から本件発明に対して特許を受ける権利を適法に継承したものとは言えないため、被告人がその特許の出願人名義を被告人に変更したとしても、そのような行為が業務上背任罪に該当しないと判示し、業務上背任罪の成立を認めた原審判決を破棄した。
専門家からのアドバイス
職務発明に関する規定は、韓国の場合、特許法ではなく発明振興法において規定されているところ、発明振興法では、職務発明に対して特許を受ける権利は、発明者の従業員に帰属し、使用者はこれに対し通常実施権のみを有することを原則としている。そして、例外的に予め契約や勤務規定などがある場合には使用者が特許を受ける権利を継承することができるとしている。ただし、これらの契約や勤務規定がない場合には、使用者は従業員の意思に反してその発明に対する権利の継承が主張できないと規定している。従って、事前の継承約定や明示的継承約定がない場合は、職務発明に対して特許を受ける権利が使用者に暗黙的に継承されたことが認められるのは極めて例外的な場合に限られることになる。
本件は、被害者会社の名義となっていた特許出願について被告人が不当に名義を自分のものに変更したことを理由に業務上背任行為であると刑事告訴され、原審法院は、そのまま有罪を認めていたわけであるが、大法院では、従業員の暗黙的意思を追認できる明白な事情がある場合に限って暗黙的継承を認めることができ、本件特許出願はそもそも被害者会社に継承されていなかったと判断したことは発明振興法の立法趣旨及び厳格な証明が求められる刑事法の趣旨に符合する妥当な結論であると言えよう。
日本国内でも同様であるが、従業者の職務発明の扱い、対価の設定等については、事前に契約や勤務規定等で定め従業者と協議を行うなど、十分に準備しておく必要がある。また、発明振興法で定める職務発明の規定は、日本の特許法と実質的にほぼ等しいものといえるが、職務発明をした従業員から使用者に対する文書による通知義務、承継可否の文書による通知義務、権利の承継後の出願放棄、取下時の補償など、異なる手続きも規定されているので、日系企業において、韓国法に基づき職務発明に関する社内規定を定める際、留意されたい。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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