知財判例データベース 営業秘密を盗用して作用効果に差のない変形を加えただけの特許発明は無権利者の出願であって無効とした事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
○○○(原告、被上告人)v. 株式会社チョンウ食品(被告、上告人)
事件番号
2009フ2463
言い渡し日
2011年09月29日
事件の経過
確定

概要

317

[発明者でない無権利者により出願及び登録された特許が無効であると判示した事例]
転職する職員が元会社の営業秘密をリークした後、該当営業秘密を変形して特許を出願及び登録した場合、その変更がその技術分野で当業者が普通に採用する程度の技術的構成の付加・削除・変更に過ぎず、それにより発明の作用効果に特別な差をもたらさない等、技術的思想の創作に実質的に寄与していないのであれば、その特許発明は無権利者の特許出願に該当しその登録が無効となる。

事実関係

被告は「モチを内蔵する菓子及びその製造方法」に関する本件特許発明の特許権者であるところ、原告は被告を相手取って、本件特許発明は未完成の発明であり、特許請求範囲に記載の不備があるという理由で登録無効審判を請求したが、特許審判院は原告の請求を棄却した。原告は上記の審決に対する取消訴訟を提起して、本件特許発明の進歩性が否定されるという主張及び被告が特許法第33条第1項本文の発明をした者又はその承継人に該当しないという主張を追加したところ、特許法院は被告が発明をした者に該当しないか、または進歩性が否定されるという理由で原告の請求を認容し、被告はこれを不服として大法院に上告した。

判決内容

大法院は、発明者でない者として特許を受けることができる権利の承継人でもない無権利者が、発明者が行なった発明の構成を一部変更することによって、その技術的構成が発明者の発明と相違するようになったとしても、その変更がその技術分野で通常の知識を有する者が普通に採用する程度の技術的構成の付加・削除・変更に過ぎず、それにより発明の作用効果に特別な差をもたらさない等、技術的思想の創作に実質的に寄与していない場合にはその特許発明は無権利者の特許出願に該当し登録無効であるという法理に基づき、原告が経営する企業の研究開発部長であった者が被告会社に転職してモチ生地製造工程に関する原告の営業秘密をリークしたという点、被告会社は原告の営業秘密を変形して競争商品を発売し、本件特許発明を出願及び登録したという点、本件特許発明の特徴的な部分はモチの特性上、長期間保管できないという問題点を解決するための構成2のモチ生地製造工程部分であると言えるところ、たとえ投入される原料と配合比率が一部異なるとしても構成2は原告の営業秘密の対応構成と実質的な差がないという点、原告の営業秘密と実質的な差がない構成2に原告の営業秘密にない構成1、3、4を付加することは当業者が普通に採用する程度の変更に過ぎず、その変更により発明の作用効果に特別な差をもたらさないため、被告会社が本件特許発明の技術的思想の創作に実質的に寄与していないという点などを考慮し、本件特許発明は無権利者が特許を出願して特許を受けた場合に該当しその登録が無効であると判断し原告の上告を棄却した。

専門家からのアドバイス

特許法第133条第1項第2号は発明者又はその承継人でない無権利者が特許を出願して登録を受けた、いわゆる冒認出願の場合を特許無効事由の一つと規定している。しかし、正当な権利者が知らない状態で第三者が無断で出願した場合や正当な権利者の出願以後、第三者が書類を偽造する等の方法により無断で出願人の名義を変更した場合などのように、発明の同一性自体に争いのない典型的な冒認出願の場合とは異なり、発明された技術を無断で取得した後、これを変形させ特許を出願する場合には、そもそもその発明が冒認の元となった発明と同一視できるか否か、個別に慎重な判断が必要となる。しかし、本件判決は冒認対象発明の一部に変形を加えたとしても実質的な同一性を認めることができる基準を明らかにしており、ヘッドハンティング等により技術が他社に流出し、そこで多少の変更を加えて特許権が取得されてしまうという問題に悩まされている日本企業にとって、大いに参考となる判決である。

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