知財判例データベース 専用実施権侵害行為による損害算定は、通常実施料ではなく専用実施権者がj実際に被った利益損を基準とすべき
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- サムウ建設株式会社(原告、上告人)v. ○○総合建業株式会社他1(被告、被上告人)
- 事件番号
- 2010ダ58728
- 言い渡し日
- 2011年05月13日
- 事件の経過
- 破棄差し戻し
概要
312
特許技術が適用された工事を直接受注施工して利益をあげるために特許権者から専用実施権を取得したが、特許権者が上記の専用実施権を侵害して第三者に通常実施権を与え、その第三者に工事を受注させた後、これを下請けとして改めて受注し施工することにより、専用実施権者が上記工事を直接受注施工できなくなった場合、特許権者の専用実施権侵害行為により専用実施権者が被った損害は、第三者への通常実施料相当額ではなく、専用実施権者が上記の工事を直接受注及び施工できずに得られなくなった利益を基準に算定しなければならない。
事実関係
原告と被告は本件特許の共有特許権者であるが、原告は被告と大邱広域市及び慶尚北道地域を対象地域とし「2005年9月~2022年の権利存続期間満了時」を承認期間とする本件特許に関する「専用使用承認契約」を締結した(ただ、原告がその後特許庁へ手続した専用実施権設定登録では承認期間は「2006年1月12日から2009年1月11日まで」の3年間となっていた)。
被告は上記「専用使用承認契約」にもかかわらず、他の建設会社に本件特許に対する通常実施権を設定し大邱広域市及び慶尚北道地域で本件特許を利用した工事を施行できるようにすると共に、上記他の建設会社から関連工事の下請けをさらに受けて遂行したため、原告は被告に対して本件特許を利用した営業活動の差止及び専用実施権侵害による損害賠償を請求した。これに対してソウル高等法院は、営業活動差止請求については、本件特許登録原簿に記載された専用実施権承認期間が既に経過したという理由で棄却し、専用実施権侵害による損害賠償請求については、被告が他の建設会社に通常実施権を与えて受け取ることとした通常実施料相当額のみを損害額と認めたが、原告はこれを不服として大法院に上告した。
判決内容
大法院は、先ず営業活動差止請求と関連し、契約書など処分証書の真正成立が認められるのであれば、法院としてはその記載内容を否認するだけの明らかで首肯し得る反証がない限り、原則的にその処分証書に記載されている文言通りの意志表示の存在と内容を認めなければならず、当事者間に契約の解釈をめぐって異見があって処分証書に示された当事者の意思解釈が問題となる場合にはその文言の内容、その約定がなされた動機と経緯、その約定によって達成しようとする目的、当事者の真の意思などを総合的に考察して論理と経験則によって合理的に解釈しなければならない。よって、たとえ本件特許登録原簿に登録された原告の専用実施権期間が「専用使用承認契約」の契約期間と異なって記載されているとしても、「専用使用承認契約」には「専用使用承認期間」として2022年の権利存続期間満了時までとするという点が明確に記載されているうえ、その期間を制限する別途の約定もないという点、被告会社が対象地域を別にして他の会社と締結した「専用使用承認契約」には原告との契約とは異なり契約期間を3年と明示している点、原告が本件訴訟を提起した後に持続的に専用使用承認契約と異なって登録されている登録原簿上の専用実施権承認期間を是正してほしいと要請したことに対しても特別な反駁をしなかった点などを根拠に、「専用使用承認契約」の契約期間は本件特許権の権利存続期間と見ることが相当であると判断した。
次に、専用実施権侵害による損害賠償請求と関連し、被告会社の侵害行為により原告が被った損害は、特別な事情がない限り専用実施権侵害により原告が各工事を受注及び施工できなかったことにより得ることができなくなった利益を基準に算定するのが合理的であり、被告会社が他の建設会社に通常実施権を与えて受け取ることと約定した通常実施料を基準に算定するものではないと判断した。
以上により、大法院は、原審判決の原告敗訴部分のうち、被告会社に対する営業活動差止請求に関する部分及び専用実施権侵害による損害賠償請求部分を破棄した。
専門家からのアドバイス
本件で大法院は特許登録原簿に登録された専用実施権期間と、当事者間の契約による承認期間が異なっている場合、特許登録原簿の記載より当事者の真の意思が優先されなければならないという見解を明示した。もちろん、当事者間の意思のみを基準とした場合、善意の第三者に予想し得ない被害を被らせるおそれがあるが、この判決は、そこまで射程とするものではないだろう。
一方、専用実施権者の損害額の算定について、通常実施料相当額を損害額と算定すべきか否かが争点になった わけだが、損害賠償は実損害賠償が原則であり、推定規定は単に立証負担を緩和するための規定である点を考慮すれば、大法院が通常実施料相当額ではなく、工事受注・施工をすることができなかったために得ることができなかった利益を基礎に損害賠償を命じたことは至極妥当であると言え、侵害行為への抑止力を高めるために損害賠償額をなるべく高く算定しようとする最近の風潮にも符合するものであろう。
ただし、特許権等に基づく損害賠償を請求するに際し、まずは、損害額を算出する根拠となる証拠を十分収集し主張する必要があるが、実際は、これが困難である場合も少なくなく、そのような場合は、損害額の推定規定を有効に活用するようにしたい。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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