知財判例データベース 自己公知による公知例外規定の適用を受けようとする趣旨は特許出願後に補正することはできないとした事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 韓電KDN株式会社(原告、被上告人)v. 特許庁長(被告、上告人)
- 事件番号
- 2010フ2353
- 言い渡し日
- 2011年06月09日
- 事件の経過
- 破棄差し戻し
概要
319
特許出願以後に、自己公知による公知例外規定の適用を受けようとする趣旨を補正することは許容されないため、特許出願当時、特許法第30条第2項の文言により自己公知による公知例外規定の適用を受けようとする趣旨を特許出願書に記載しなかったのであれば、その後上記のような趣旨を記載した書面を特許庁に提出しても、特許法第30条第1項第1号所定の例外規定を適用することはできない。
特許法第30条(公知等となっていない発明とみなす場合)(1)特許を受けることができる権利を有する者の発明が次の各号のいずれかに該当する場合には、その日から6月以内に特許出願をしたときは、その特許出願された発明についての第29条第1項(新規性)又は第2項(進歩性)の規定の適用については、その発明は、第29条第1項各号のいずれかに該当しないものとみなす。
- 特許を受けることができる権利を有する者によりその発明が第29条第1項各号のいずれかに該当するに至った場合。ただし、条約又は法律により国内又は国外において出願公開され、又は登録公告された場合を除く。
- 特許を受けることができる権利を有する者の意思に反してその発明が第29条第1項各号の1に該当するに至った場合(2)第1項第1号の規定の適用を受けようとする者は、特許出願書にその旨を記載して出願し、これを証明する書類を特許出願日から30日以内に特許庁長に提出しなければならない。
事実関係
「変電所内の部分放電測定が可能なIEC61850基盤のデジタル変電システム」に関する本件出願発明の発明者は出願発明に関する研究論文を2006年5月26日の学会で発表し、原告はその従業員である上記の発明者から特許を受ける権利を継承し2006年6月21日特許出願をしたが、その特許出願書には「公知例外適用対象出願」という趣旨を明示せず、その翌日である2006年6月22日に「本件出願発明が2006年5月26日刊行物発表により公開された」という内容と「特許法第30条第2項の規定により証明書類を提出する」という趣旨を記載して上記の論文を添付した「公知例外適用対象証明書類提出書」を特許庁に提出した。これに対し特許庁審査官は公知例外の適用を主張する者はその趣旨を記載した書面を特許出願と同時に提出しなければならないという特許法第30条第2項違反を理由に、公知例外適用主張を認めず、これにより公知技術になり得る上記の論文に記載された発明によって新規性が否定されるという理由で拒絶決定をし、特許審判院も同じ理由で拒絶決定に対する不服審判を棄却した。これに対して原告は審決取消訴訟を特許法院に提起したところ、特許法院は、特許出願書に自己公知例外規定の適用を受けようとするという趣旨を記載しなかったとしても、第三者に特段の不利益があるわけでもなく、以後の手続きが進められないわけでもないなどの理由をあげ、特許審判院の審決を取消して原告の請求を認容したため、被告である特許庁長はこれを不服として大法院に上告した。
判決内容
大法院は特許法院の判断と異なり、特許法第30条規定の内容及び趣旨と特許法第30条で定める公知例外適用の主張は出願とは別個の手続きであるため、特許出願書にその趣旨の記載がなければその主張のない通常の出願に該当する。従って、その主張に関する手続き自体が存在しないため、出願後、それに関する補正は許容され得ない点に照らしてみれば、特許法第30条第1項第1号の自己公知例外規定に該当するという趣旨が特許出願書に記載されていない状態で出願された場合には、自己公知例外規定の効果を受けることができないものであるから、特許法第30条第2項前段に規定された手続きをそもそも履行しなかった出願についてその手続きを補正することにより特許法第30条第1項第1号の適用を受けられるものではないと判断し、特許法院の判決を破棄した。
専門家からのアドバイス
本件の原審となる特許法院判決(2010年7月16日言渡2009ホ9518)については、本報告書にて既に報告済みであるので詳細についてはそちらを参照されたいが、結果的に大法院は、原則に対する例外的な救済規定はその解釈と適用を厳格にすべきと判断し、これについては法解釈上異論の余地はないと言える。
ただし、特許法第30条そのものが、2001年頃から公知形態要件について制限緩和され、現行法では撤廃されており、第2項の表現自体も2006年3月改正で「~その旨を記載した書面を特許出願と同時に提出し~」から「~特許出願書にその旨を記載して出願し~」に変更され「同時性」が弱まっているうえ、PLT協定を反映した法改正でも出願書の補正範囲が拡大方向で進められていることを勘案してみれば、特許法院の「出願人の便宜を図るために厳格な解釈と適用を避けるべき」という方向性も今後十分に考えられよう。
今後の法改正や解釈はともかくとして、現行法においては、大法院の判決があった以上、特許を出願する発明者は特許出願当時に自己公知例外規定に該当するという趣旨を書き洩らさないようくれぐれも留意されたい。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195