知財判例データベース 公知化合物と結晶形態だけが異なる結晶形発明は、公知化合物の効果と質的量的に差異がなければ進歩性否認

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
Recordati Ireland Limited(原告、上告人)v.日東製薬株式会社(被告、被上告人)
事件番号
2010フ2865
言い渡し日
2011年07月14日
事件の経過
確定

概要

322

医薬化合物分野で先行発明に公知となった化合物と結晶形態だけが異なる特定結晶形の化合物を特許請求範囲とするいわゆる結晶形発明は、特別な事情がない限り先行発明に公知となった化合物が有する効果と質的に異なる効果を有しているか、質的な差がなくても量的に顕著な差がある場合に限ってその進歩性が否定されない。

事実関係

原告は「レルカニジピン(Lercanidipine)塩酸の新規結晶性多形及びその製造方法」に関する本件特許発明(登録番号:第667687号)の特許権者であるところ、被告は原告を相手に、本件特許発明は比較対象発明により新規性及び進歩性が否定されるだけでなく本件特許発明の優先権主張日前に公然と実施された発明に該当し、また、その明細書の記載も不備であるという理由で登録無効審判を請求した。これに対し、特許審判院は、本件特許発明は比較対象発明により新規性及び進歩性が否定されるという理由で被告の審判請求を認容した。原告は上記の審決に対する取消訴訟を提起し、特許法院は、本件特許発明は新規性は認められるものの、進歩性が否定されるという理由で原告の請求を棄却し、原告はこれを不服として大法院に上告した。

判決内容

大法院は、同一の化合物が様々な結晶形態を有することができ、その結晶形態によって溶解度、安全性などの薬剤学的特性が異なり得ることは医薬化合物技術分野で広く知られており、医薬化合物の製剤設計のためにその結晶多形の存在を検討することは通常行なわれることであるため、医薬化合物分野で先行発明に公知となった化合物と結晶形態だけを別にする特定結晶形の化合物を特許請求範囲とするいわゆる結晶形発明は、特別な事情がない限り先行発明に公知となった化合物が有する効果と質的に異なる効果を有しているか、質的な差がなくても量的に顕著な差がある場合に限ってその進歩性が否定されないと説示した。そして、この時、結晶形発明の詳細な説明には、先行発明との比較実験資料まではないとしても、上記のような効果が明確に記載されていることが必要であり、そのような記載があってこそ初めて進歩性判断の材料として考慮することができ、万一、その効果が疑わしい時には、出願日以後に出願人又は特許権者が信頼できる比較実験資料を提出する等の方法により、その効果を具体的に主張・立証しなければならないという法理を判示した。上記のような法理に基づき、本件特許発明のレルカニジピン(Lercanidipine)塩酸塩結晶形(I)は、比較対象発明に開示された同一な化学構造の化合物であるレルカニジピン(Lercanidipine)塩酸塩結晶とその結晶形態だけを異にする結晶形発明に該当し、本件特許発明における発明の詳細な説明に記載されている結晶形(I)の生体利用率、溶解度及びバッチ(batch)間変移減少に関する効果などは、比較対象発明の化合物に比べて異質的であるか、量的に顕著な効果を有すると言えないとの理由で本件特許発明の進歩性を否定し、原告の上告を棄却した。

専門家からのアドバイス

医薬化合物の発明で、物質特許の存続期間が満了となった後、従来の化合物では発見されなかった結晶形などを特許出願して登録されたケースが多数存在しており、これら結晶形発明などに関する特許と関連した紛争がたびたび発生している。よく知られているように、ジェネリック企業は、このような形の結晶形発明は多国籍製薬社の特許権の実質的な延命(いわゆるエバーグリーン戦略)であって、本来有効な発明ではないと主張する一方、多大な投資により先行して発明を行った多国籍製薬会社などの特許権者は、結晶形発明が従来の物質とは異なり新規で進歩性があり有効であると主張している。このような状況でこの大法院判決は、結晶形発明の進歩性判断に関するものとして該当業界の多くの注目を集めている。

本判決は、結晶形発明の進歩性判断基準に関して、大法院が事実上初めての判断を下し、原則的に、先行発明に対し、異質な効果を有しているか又は量的に顕著な効果の差異がある場合に限り進歩性が認められるという判断基準を示したものとして、大きな意味を有しているものである。

今後、このような結晶形発明を出願する際には、明細書において実施例をきちんと記載した上で、先行発明との比較を行い、先行発明に対する異質な効果又は量的に顕著な効果の差異があることを具体的に記載することが必要になると思われる。

なお、今回示された判断基準は、結晶形発明の進歩性の判断に際し、数値限定による発明と同様、異質な効果又は顕著な効果の差異を求めるという点で、明確なものであるといえるが、実務的には、効果の異質性又は顕著性について厳格に判断される傾向があるため、特許権者にとってはやや厳しい判断基準となろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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