知財判例データベース 課題の共通性と結合阻害要素不存在だけで進歩性を否定するのは事後的考察として許容されない

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
スリーエムカンパニー(原告、上告人)v. 株式会社エルエムエス(被告、被上告人)
事件番号
2010フ2698
言い渡し日
2011年02月10日
事件の経過
破棄差し戻し

概要

300

発明の進歩性の判断において、比較対象発明に現れた構成を組み合わせ又は結合すれば当該発明に想到できるという暗示・動機が提示されていない場合、単純に課題の共通性が認められ、比較対象発明の結合を阻害する要素がないなどの理由だけで結合の困難性がないと判断することは、通常の技術者が該当特許発明の明細書に開示されている発明の内容を既に知っていることを前提として事後的に発明の進歩性を判断する事後的考察(後知恵)として許容されない。

事実関係

原告は「多様な高さの構造画面を持つ光指向性フィルムとこのようなフィルムで構成された物品」に関する本件特許発明の特許権者であるところ、被告は原告に対し本件特許発明は原告の優先権主張日以前に公知となった比較対象発明により新規性又は進歩性がないなどの理由で登録無効審判を請求し、これに対し原告は本件特許の明細書及び図面に対する訂正を請求した。特許審判院は原告の本件訂正請求を認めたにもかかわらず、依然として進歩性が認められないという理由で登録無効審判を認容し、原告はこれに対する取消訴訟を提起したが、特許法院も新規性又は進歩性が認められないという理由で原告の請求を棄却し、原告はこれを不服として大法院に上告した。

判決内容

大法院は本件特許発明のうち、第1項及び第3項ないし第9項発明については、特許法院と同様に新規性又は進歩性が否定されるという点を認めたが、第2項発明については、比較対象発明1、2と課題の共通性が認められ、比較対象発明1、2の結合を阻害する構成上の事由がないという理由で進歩性を否定した特許法院と異なり、第2項発明は比較対象発明1とは構成上の差異があり、比較対象発明1に比較対象発明2に示されている構成を導入して第2項発明と同一の構成を導出することは比較対象発明1本来の技術的意味を失わせ得るため、容易に思いつき難いだけでなくその構成が相反するという側面がある。よって、比較対象発明1、2にその技術を組み合わせ又は結合すれば第2項発明に至ることができるという暗示・動機などが提示されてもいない以上、訂正された本件特許の明細書に開示されている発明の内容を既に知っていることを前提として事後的に第2項発明に至るという判断をしない限り通常の技術者であっても比較対象発明2に示されている構成を比較対象発明1に結合して第2項発明を容易に導出することはできず、このような事後の判断は許容されないため、比較対象発明により進歩性は否定されないと判断した。一方、特許無効審判手続きで訂正請求がある場合、訂正の認定如何は無効審判手続きに対する決定手続きで共に審理されるものであるため、独立した訂正審判請求の場合と異なり訂正だけが別に確定するのではなく無効審判の審決が確定する時に共に確定し、特許の登録無効如何は請求項別に判断すべきであるとしても、特許無効審判手続きにおける訂正請求は特別な事情がない限り不可分の関係において一体として許容如何を判断しなければならないところ、本件訂正請求はその訂正事項が本件第1項ないし第7項発明にわたっていたため、訂正された第2項発明の特許無効に関する部分が上記のように破棄されなければならない以上、第2項発明の他にも訂正された第1項、第3項ないし第7項発明の特許無効に関する部分も共に破棄されなければならないと判断することによって結局原審判決のうち、本件第1項ないし第7項に対する部分を一部破棄した。

専門家からのアドバイス

発明の進歩性判断における組み合わせ・結合容易性に関連し、大法院は「組み合わせや結合に関する暗示・動機は必須なものではなく、出願当時の技術水準、技術常識、該当技術分野の技術的課題、発展傾向、該当業界の要求などに照らし当業者が想到し得るのであればその進歩性は否定される」(大法院2009年5月28日言渡2007フ2926判決)という解釈を取っている。本件ではここから一歩踏み込んで、暗示・動機がない場合、想到容易についてはより厳格な基準が適用されるべきであり、本件においては比較対象発明2は比較対象発明1の構成と相反していてその技術的意味を失わせる可能性があり(いわゆる結合阻害要因の存在)、とすれば比較対象発明1、2の結合を想到容易と判断した原審は事後的考察(いわゆる後知恵)によるものと訓戒的に言い切ったところに注目したい。進歩性判断における組み合わせ・結合容易性に関連して、「阻害要因」や「後知恵」という考え方そのものは目新しいものではないが、少なくとも大法院よりは技術的専門性が高いはずの審判段階、特許法院の判断に対し、大法院が「阻害要因」を認め「後知恵」であると認定したのは非常に珍しいと言え、特許権者にとっては非常に有用な先例となろう。

本件第2項発明;プリズム要素が実質的に同一の頂上角を有するもので、フィルムの表面に垂直な軸方向の総光量を実質的に減少させないようにする構成

引用発明1;プリズム部の頂点角を異ならせる構成を採用することによって、無光量角を排除しようとするもの。

引用発明2;頂上角度が90°ですべて同一であり、プリズムフィルムまたはシートの凹凸のピッチを意図的に不規則に配置する構成。すなわち、引用発明2の全て同一な頂上角を適用することは引用発明1の本来の技術的意味を喪失させることになる。

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