知財判例データベース 拡大された先願に関する発明の同一性判断では新しい作用効果を発生させていれば両発明は同一ではないとした事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- ○○○(原告、被上告人)v.○○○(被告、上告人)
- 事件番号
- 2010フ2179
- 言い渡し日
- 2011年04月28日
- 事件の経過
- 破棄差し戻し
概要
311
拡大された先願に関する特許法第29条第3項で規定する発明の同一性は発明の進歩性とは区別されるものであって、技術的構成の差が課題解決のための具体的手段として周知・慣用技術の付加・削除・変更などに過ぎない場合を越えて新しい作用効果を発生させる場合であれば、たとえその差が該当発明が属する技術分野で通常の知識を持った人が容易に導出できる範囲内であるとしても2つの発明は同一であるとは言えない。
事実関係
被告は「染色用ボビン」に関する本件特許発明(登録番号:第0699298号)の特許権者であるところ、原告は被告を相手に本件特許発明はその出願前に公知となった先行技術からこの技術分野で通常の知識を持った者が容易に発明できるものであって進歩性が否定されるという理由で登録無効審判を請求したが、特許審判院は審判請求を棄却した。原告はこれに対し審決取消訴訟を提起し、本件特許発明の進歩性が否定されるという主張に加えて、本件特許発明が拡大された先願の地位にある比較対象発明と同一な発明であるので無効になるべきであるという主張を追加したところ、特許法院は本件特許発明が比較対象発明と実質的に同一であるため、特許法第29条第3項の規定により登録は無効であるとして原告の請求を認容し、被告はこれを不服として大法院に上告した。
判決内容
特許法院は、本件特許発明と比較対象発明との間の技術的構成の差にもかかわらず、これは通常の技術者が普通に採用する程度の変更に過ぎず、その変更により作用効果に特別な差を生じさせないという理由でこれら発明が実質的に同一であると判断した。しかし、大法院は、拡大された先願に関する特許法第29条第3項で規定する発明の同一性は、発明の進歩性とは異なり、2つの発明の技術的構成が実質的に同一であるかどうかにより判断されるものであるところ、発明の効果も参酌して判断すべきものであると説示した上で、技術的構成に差があってもその差が課題解決のための具体的手段として周知・慣用技術の付加・削除・変更などに過ぎず、新しい効果が発生しない程度の微細な差に過ぎなければ、2つの発明は互いに実質的に同一であると言えるが、2つの発明の技術的構成の差が上記のような程度を超えるのであれば、たとえその差が該当発明が属する技術分野で通常の知識を持った人が容易に創出できる範囲内であるとしても2つの発明を同一とみることはできないという法理を前提に置いた。そして、本件の具体的判断について、本件特許発明では芯体がコイルスプリング形状の単一体でフェルール(Ferrule)に至るまで壁体の内側全体にわたり螺旋形に連結して熔接されているのに反し、比較対象発明では上記の芯体に対応する上下側プレートが円形のリング形状に相互分離され、各々上部及び下部リングボビンの内側一部にのみ円形に連結して熔接されるだけであるという点から、両発明の技術的構成の差が課題解決のための具体的手段として周知・慣用技術の付加・削除・変更などに過ぎないと言えないだけでなく、その差によって本件特許発明では比較対象発明とは異なり芯体が壁体を構成する多数の支持棒とフェルール(Ferrule)に至るまで様々な部位で熔接されながら染色用ボビンの堅固性を向上させる新しい作用効果が発生すると判断し、結局両発明は、実質的に同一ではないとして、特許法院の判決を破棄した。
専門家からのアドバイス
特許法第29条第3項は拡大された先願の適用に関する規定であるが、その同一性判断と関連し、過去、大法院は「たとえ両発明の構成に相違点があってもその技術分野で通常の知識を持った者が普通に採用する程度の変更に過ぎず、発明の目的と作用効果に特別な差を生じさせない場合」には同一な発明と見なければならないという立場を取っていた(大法院2009年9月24日言渡2007フ2797判決等)。そのため、韓国においては、特許法第29条第3項で規定する発明の同一性に対する判断基準と特許法第29条第2項の進歩性に対する判断基準を区分することが容易でないとの側面があった。
拡大された先願の適用を認める趣旨は、先願が公開された場合には特許法第29条第1項所定の新規性喪失事由になるが、先願の明細書又は図面には記載されていても先願が公開されていない場合には当該明細書又は図面に記載された発明と同一の後願を拒絶できなくなり、公開の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨に合致せず、これを防止しようとするところにある以上、拡大された先願の適用と関連して発明の同一性を判断する基準は、進歩性の判断基準とは明らかに一線を画すべきものである。したがって、本件判決が拡大された先願の適用と関連して発明の同一性を判断する基準は進歩性を判断する基準とは区別されなければならないという点を明確に判示したことは妥当な結論である。拡大された先願と進歩性の判断基準が区別されなければならないという大法院の判示は今後類似の事例を通して一層具体化されていくものと期待される。
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