知財判例データベース 発明の詳細な説明の記載要件と特許請求の範囲の記載要件は一事不再理原則の適用対象となる同一事実ではない

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
○○○(原告)v. グリーンコート株式会社他1(被告)
事件番号
2010ホ5918
言い渡し日
2011年04月08日
事件の経過
確定

概要

304

特許法第42条第3項 は「発明の詳細な説明」の記載と関連して満たされなければならない要件に関して規定しており、第42条第4項第1号、第2号 は「特許請求の範囲」の記載と関連して満たされなければならない要件に関して規定しているため、当該特許権の無効が問題になる場合、当該特許権との関係において確定が要求される具体的事実が同一であると見ることができず、上記の各記載要件の充足如何は特許法第163条で規定する一事不再理原則の適用対象となる同一事実に該当しない。 3「第2項第3号の規定による発明の詳細な説明には、その発明の属する技術分野において通常の知識を有する者がその発明を容易に実施することができるように知識経済部令で定める記載方法により明確かつ詳細に記載しなければならない。」4「第2項第4号の規定による特許請求の範囲には、保護を受けようとする事項を記載した項(以下「請求項」という)が1又は2以上なければならず、その請求項は、次の各号に該当しなければならない。」 1.発明の詳細な説明により裏付けられること 2.発明が明確かつ簡潔に記載されること5「この法による審判の審決が確定したときは、その事件については、何人も、同一の事実及び同一の証拠に基づいて再び審判を請求することができない。ただし、確定した審決が却下の審決である場合には、この限りでない。」

‐特許法第42条第3項の記載要件と同条第4項の記載要件は一事不再理原則の適用対象となる同一事実ではないと判断した事例‐

事実関係

被告は「紙コーティング用ブレード加工装置」に関する本件特許発明の特許権者であるところ、過去、訴外会社が被告を相手取って本件特許発明は明細書記載要件を備えておらず、特許法第42条第3項と第4項に背反し、新規性及び進歩性もないという理由で登録無効審判を請求したが、特許審判院は本件特許発明は特許法第42条第4項を満たし、新規性及び進歩性も否定されないという理由で審判請求を棄却し、これは確定した事実がある(以下「確定審決」)。その後、原告は被告を相手取って本件特許発明は特許法第42条第3項に背反するという理由で本件登録無効審判を請求したが、特許審判院は本件特許発明の詳細な説明が特許法第42条第3項所定の記載要件を満たすかどうかに対して既に確定審決で判断されているため、原告の審判請求は一事不再理の原則に違反するという理由で原告の審判請求を却下し、原告はこれに対する取消訴訟を提起した。

判決内容

先ず、特許法第42条第3項記載要件の充足如何と、第42条第4項記載要件の充足如何が特許法第163条(一事不再理)で規定している「同一事実」に該当するかどうかと関連し、特許法院は、特許法第42条第3項の意味は「発明の詳細な説明」部分には当業者が当該発明を出願時の技術水準と比べて特殊な知識を付加しなくても正確に理解することができ、同時に再現できる程度にその発明の目的・構成及び効果が記載されていなくてはならないというものであり、特許法第42条第4項の意味は「特許請求の範囲」と関連し、特許出願当時の技術水準を基準として当業者の立場から見るとき、その特許請求の範囲と発明の詳細な説明の各内容が一致してその明細書だけで特許請求の範囲に属した技術構成やその結合及び作用効果を一目瞭然に理解できなければならず(第1号)、発明の構成を不明瞭にする用語を使用したり発明の詳細な説明で定義している用語の定義と異なる意味で用語を使用することにより結果的に特許請求の範囲を不明瞭にしてはならない(第2号)というものであるため、特許法第42条第3項の記載要件と第42条第4項のそれぞれの記載要件はその要件の充足対象が「発明の詳細な説明」と「特許請求の範囲」に明確に区別され、各記載要件ごとにその充足如何に対する判断基準も相違し、さらに特許無効審判事由を規定している特許法第133条第1項で第42条第3項と第42条第4項を別個の無効審判請求事由と規定しているという点などを考慮するとき、上記の各記載要件の充足如何は特許法第163条で規定する「同一事実」に該当しないと判断した。

次に、確定審決において特許法院第42条第3項の記載要件充足も判断したかどうかと関連し、特許法院は、確定審決は特許法第42条第4項を判断根拠として本件特許発明の特許請求の範囲が明確に記載されているかどうか(第2号)と特許請求範囲が発明の詳細な説明により裏付けられているかどうか(第1号)に対してのみ判断しただけで、本件無効審判で原告が主張している特許法第42条第3項の記載要件に対しては判断したところがないと認めた。

以上の判断に基づき、本件無効審判は従来の確定審決で判断しなかった新しい事実に基づいて提起されたものであるため、特許法第163条で定めた一事不再理の原則に抵触しないとして原告の請求を認容した。

専門家からのアドバイス

一事不再理の効力が及ぼす同一事実というのは、当該特許権との関係で確定が要求される具体的事実が同一であることを意味するというのが大法院判例の見解である。登録無効審判の場合には産業上利用可能性、新規性に関する各号、進歩性、特許請求の範囲の記載要件に関する各号、発明の詳細な説明の記載要件、その他特許法で定めている各登録無効事由が各々別個の事実を構成すると見なければならず、権利範囲確認審判の場合には特許発明と比較対象になる確認対象発明が同一かどうかによって別個の事実を構成すると見なければならない。従って、特許法第133条第1項で別個の無効事由と規定されている特許法第42条第3項と第42条第4項は一事不再理の効力が及ぼす同一事実に該当しないと判断した本件判決は一事不再理の法理に符合する妥当な結論であると言える。ただし、実務的には、特許法第42条第3項と第42条第4項とが明確に区別されずに判断されることもあり得るので、先に下された確定判決の内容を詳細に検討してから審判請求をするかどうかを決めるべきであろう。

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