知財判例データベース 独立特許要件に関し、補正以前から記載され拒絶理由が通知されていない事項には適用できない

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
株式会社韓国バイオケミカル(原告、被上告人)v. 特許庁長(被告、上告人)
事件番号
2009フ2678
言い渡し日
2011年09月29日
事件の経過
破棄差し戻し

概要

318

[旧特許法第47条第4項第2号の規定趣旨及び適用範囲に対して判示した事例]
旧特許法第47条第4項第2号 は、補正以前から既に特許請求の範囲に記載されていた事項であって、特許出願人にそれに対する拒絶理由を通知していなかった場合には、後の補正により当該事項が残っていたとしても適用することはできず、補正された請求項が通知された拒絶理由を依然として解消していない場合、または、通知された拒絶理由は解消したものの、当該補正により新たな拒絶理由が発生した場合にのみ適用される。

事実関係

原告は本件出願発明である「植物病原菌防除用組成物及びその製造方法」について特許出願したが、特許庁審査官は、本件出願発明はその発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が比較対象発明により容易に発明できるため、進歩性が否定されるという理由で特許拒絶決定をした。これに対し、原告は拒絶決定不服審判を請求すると共に請求範囲の一部を補正したが(以下「本件補正」とする)、特許庁審査官は本件補正について旧特許法第47条第4項の要件を満たさないとして補正却下決定をし、拒絶決定を維持した。原告はこれを不服として審決取消訴訟を提起したところ、特許法院は上記の補正却下決定は違法として原告の請求を認容したため、被告は大法院に上告した。

判決内容

大法院は、旧特許法(2009年1月30日法律第9381号に改正される前のもの)によれば、特許拒絶決定に対して不服審判を請求しつつ行なう明細書又は図面の補正は「補正後の特許請求の範囲に記載された事項が特許出願をした時点において特許を受けることができるものであること」という要件を満たさなければならず、特許庁審査官はその審査前置手続きでその補正が上記の要件を満たさない時には決定をもってその補正を却下しなければならないところ、旧特許法第47条第4項第2号は特許出願人の手続き的利益を保障しようとする旧特許法第63条の拒絶理由通知制度の趣旨上、補正以前から既に特許請求範囲に記載されていた事項であって、特許出願人にそれに対する拒絶理由を通知していなかった場合には適用されず、補正された請求項が通知された拒絶理由を依然として解消していない場合、または、通知された拒絶理由は解消したが、当該補正により新たな拒絶理由が発生した場合にのみ適用されるという法理を示した。そして、本件補正後の発明は補正前の発明の一部を分離し請求項を新設した後、新設された請求項で範囲を限定し縮小するように補正したものであり、補正前の発明に対して通知された特許庁審査官の拒絶理由は「補正前の発明はベルベリンの坑菌効果が開示された比較対象発明1とクサノオウの活性成分としてベルベリンが開示された比較対象発明2の結合から容易に発明できる」というものであった点、補正後の発明に記載されている細菌が上記の拒絶理由に記載された坑菌効果の範囲を超える新しい内容であるとは見ることができず、比較対象発明1に記載された細菌と補正後の発明に記載された細菌は同一の種類として対象作物に差があるだけである点を考慮し、補正後の発明が比較対象発明1、2により進歩性が否定されるという事由は特許庁審査官により拒絶理由が通知されたものであると判断され、補正後の発明は補正後も通知された拒絶理由を依然として解消できなかった場合に該当するため、本件補正を却下した決定は適法であると判断し、特許法院の判決を破棄した。

専門家からのアドバイス

旧特許法第47条第4項第2号の趣旨は、日本特許法の第17条の2第6項の規定するいわゆる独立特許要件と同様、特許庁審査官が「補正後の特許請求の範囲に記載された事項が特許出願をした時点において特許を受けることができるものであること」という要件を満たせない補正に対しては直ちに補正却下決定を下すことができるようにし、補正で新しく発生した拒絶理由などに対して拒絶理由通知と異なるもう一つの別な補正が繰り返されることを排除することにより審査手続きの速やかな進行を図るためである。しかし、大法院は、補正以前から既に特許請求範囲に記載されていた事項であって、特許出願人にそれに対する拒絶理由を通知していなかった場合には適用されないと説示しており、立法趣旨とは異なる解釈を示している。ただし、本件では、結局、既に拒絶理由が通知されたものと判断し、補正却下を行った審判院の判断を支持したものである。

この判決は、最終的に補正却下を適当として結果としては出願人の主張を認めなかったものであるが、補正の扱いに関しては、出願人に有利な判示をしており、この点については参考になるであろう。

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