知財判例データベース 商標権侵害差止民事訴訟が確定しても消極的権範囲確認審判審決の取消を求める訴えの利益を認めた事例
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- ギョチョンエフアンドビー株式会社(原告、上告人)v. 株式会社ハリム(被告、被上告人)
- 事件番号
- 2008フ4486
- 言い渡し日
- 2011年02月24日
- 事件の経過
- 破棄差し戻し
概要
303
原告は被告に対し商標権に関する消極的権利範囲確認審判を提起したが、特許審判院は当該商標権に属すとして棄却審決を下した。その後、被告が商標権侵害を理由に提起した民事訴訟では当該商標権に属さないとして原告の勝訴判決が言渡され、審決取消訴訟の上告審係属中にこの民事判決がそのまま確定したとしても、原告にとって不利な本件審決の取消を求める訴えの利益は依然として認められる。
‐商標権侵害差止民事訴訟が確定しても消極的権範囲確認審判に対する審決の取消を求める訴えの利益が依然として認められると判断した事例‐
事実関係
被告は原告を相手取って、原告が使用している確認対象標章 が被告の本件登録商標 を侵害しているという理由で商標権侵害差止及び損害賠償を求める民事訴訟(以下「別件民事訴訟」とする)を提起し、原告は被告を相手取って特許審判院に確認対象標章が本件登録商標の権利範囲に属さないという趣旨の本件消極的権利範囲確認審判を請求して反撃した。特許審判院は原告の確認対象標章は類似商標に該当するという理由で原告の請求を棄却する審決を下し、原告はこれを不服として審決取消訴訟を特許法院に提起した。これに対して特許法院は、原告と被告間の商標権に関する紛争を解決するための最も有効・適切な手段である別件民事訴訟が進行中であって、本件審決取消訴訟は紛争解決の中間的手段に過ぎないため、訴えの利益がないという理由で訴えを却下し、原告はこれを不服として大法院に上告した。一方、別件民事訴訟では確認対象標章が本件登録商標を侵害しないという理由で原告の勝訴判決が言渡され、この判決は本件審決取消訴訟の上告審係属中に確定した。
判決内容
特許法院は、商標権の権利範囲確認審判は審判請求人が審判の対象とした具体的な確認対象標章との関係において当該登録商標の効力が及ぼす範囲に関して現実的な争いが続いており、同じ審判対象に対して最も有効・適切な紛争解決手段である侵害差止請求や損害賠償請求のような民事訴訟の判決が下される前にその権利範囲の属否を確定する実益がある場合にのみ確認の利益ないしは訴えの利益があるとして、本件審決取消訴訟は訴えの利益がないと判断した。しかし、大法院は商標に関する権利範囲確認審判の審決が確定された場合、その審決が民事・刑事など侵害訴訟を担当する法院を拘束することはできないとしても、商標法第75条が「商標権者・専用使用権者又は利害関係人は登録商標の権利範囲を確認するために商標権の権利範囲確認審判を請求することができる」と規定し、商標法第86条第2項により準用される特許法第186条第2項は「審決に対する訴えは、当事者、参加人、又は当該審判若しくは再審に参加申請をしたもののその申請が拒否された者に限り、これを提起することができる」と規定して権利範囲確認審判とその審決取消訴訟を明文で認めている以上、商標に関する権利範囲確認審判手続きで不利な審決を受けた当事者が有効に存続している審決を不服として審決の取消を求めることは上記商標法の規定に基づいたものとして、商標権が消滅したり当事者間の合意により利害関係が消滅する等、審決以後の事情により審決を取消す法律上の利益が消滅する特別な事情がない限り審決の取消を求める訴えの利益があるという法理に基づき、たとえ別件の民事訴訟が原告の勝訴で既に確定したとしても依然として原告に不利な本件審決が有効に存続しているという点、確定した別件の民事訴訟は逆に本件審決取消訴訟を担当する特許法院に対して法的拘束力がないため本件審決を取消す法律上の利益があるという点、特別に本件登録商標権が消滅したり、当事者間の合意により利害関係が消滅したというなどの事情もないという点を考慮し、原告に本件審決の取消を求める訴えの利益があると判断して原審を破棄し、特許法院に差し戻した。
専門家からのアドバイス
権利範囲確認審判はその立法的類例がほとんどなく、法律的効果も曖昧な反面、当事者に二重の負担を与え得るという側面から制度の廃止に対する不要論があるうえ、侵害訴訟との関係も不明確なものである。このような側面から見れば、既に侵害訴訟に対する本案判決が下されたのであれば、これ以上消極的権利範囲確認審判の審決取消訴訟を続ける理由がないとした特許法院の判決も一応妥当であるとも言える。しかし、消極的権利範囲確認審判の請求人が実施する確認対象標章が商標権者の商標権を侵害しているかどうかは最終的に商標権侵害と関連した差止請求や損害賠償訴訟など民事訴訟を通して決まるとしても、権利範囲確認審判は法律上認められている別個の手続きであるため、立法を通した解決が可能かどうかは別論としても現行法上侵害訴訟の進み具合と関係なく権利範囲確認審判手続きを進めてこれを確定する法律上の利益が認められるというのは、権利範囲確認審判制度の存在意義を改めて追認するものとして評価できるであろう。ただし、大法院の示した権利範囲確認審判制度の存在意義といっても「不利な審決の存在を排除する」「侵害訴訟判決もまた権利範囲確認審判の結果を拘束しない」の2点でしかなく、この2点は権利範囲確認審判不要論を打ち負かすほどのインパクトはないことである。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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