知財判例データベース 「需要者を欺瞞するおそれがある商標」の判断は、指定商品だけでなく類似商品までのシェアを考慮すべきである

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
株式会社済州スコテック(原告)v. 株式会社ソンイ産業(被告)
事件番号
2011ホ3445
言い渡し日
2011年07月01日
事件の経過
上告

概要

320

登録無効審判請求の対象になった登録商標が商標法第7条第1項第11号 に該当し、その登録が無効であるとするためには、先使用商標やその使用商品が登録商標の指定商品又はそれと類似の商品を取引する広い市場において、需要者や取引者に直ちに特定人の先使用商標やその使用商品と認識され、その結果、需要者や取引者に出処の誤認・混同を生じさせる場合でなければならない。よって登録商標が上記条項の「需要者を欺瞞するおそれがある商標」に該当するかどうかを判断するために先使用商標が使われた商品が市場で占める割合を参酌する時は、登録商標の指定商品のうち「特定材料の商品」に狭く限定された取引市場における先使用商標の使用商品に対するマーケットシェアを考慮するのではない。

事実関係

被告は「建築用非金属製タイル、レンガ(セメントは除外)、非金属製タイル、コンクリートタイル」などを指定商品とする本件登録商標「」の商標権者であり、原告は「レンガ、タイル、ブロック、人造石材」などに先使用商標「」を使用している先使用者である。原告は被告が一般需要者の間に顕著に知られていた先使用商標が存続期間満了で消滅した後、更新登録まではなされていなかったことを奇貨として、先使用商標と同一・類似の本件登録商標を出願・登録し使用したものであって、本件登録商標は商標法第7条第1項第11号等に該当するものであるという理由で登録無効審判を請求した。これに対して特許審判院は、先使用商標は本件登録商標の出願日及び登録決定日当時、一般需要者に特定人の商標と知られていた商標ではないというなどの理由で原告の請求を棄却する審決を下し、原告はこれを不服として審決取消訴訟を特許法院に提起した。

判決内容

特許法院は、登録無効審判請求の対象になった登録商標が商標法第7条第1項第11号で規定している「需要者を欺瞞するおそれのある商標」に該当するためには、その登録商標や指定商品と比較される他の商標やその使用商品が必ずしも著名でなければならないのではないが、少なくとも国内の一般取引において需要者や取引者にその商標又は商品と言えば直ちに特定人の商標や商品として認識され得る程度には知られていなければならず、その判断は登録商標の登録決定時を基準とすべきであるという法理に基づき、原告が14年余にわたり先使用商標を使用した商品を販売し、先使用商標又は先使用商標が含まれた商標を広告した事実は認められるものの、本件登録商標の指定商品が一般的に広く使われる建築資材であり、その市場規模が小さくないとの点を勘案すれば、原告の売上げ実績及び広告事例だけでは本件登録商標の登録決定当時、国内需要者や取引者に先使用商標やその使用商品と言えば直ちに原告又は特定人の商標や商品であると認識され得る程度に知られていたとは見られないと判断し、本件登録商標が商標法第7条第1項第11号に該当するという原告の主張を排斥した。

一方、原告は済州島の火山石である「ソンイ」を主材料としてレンガやタイルを製造しており、「ソンイ」を取扱ってレンガやタイルを製造する業者は国内にあまりなく市場規模が小さいため、原告の売上げ実績だけでも先使用商標とその使用商品が取引界で特定人のものと認識されるに充分であると主張したが、特許法院は、登録商標が商標法第7条第1項第11号に該当するかどうかを判断するために先使用商標が使われた商品が市場で占める割合を参酌する時は、登録商標の指定商品又はそれと類似の商品を取引する市場における先使用商標の使用商品が占める割合を考慮するものであって、これを登録商標の指定商品のうち「特定材料の商品」に対する取引市場だけに狭く限定して、そのように限定された市場における先使用商標の使用商品が占める割合を考慮するものではないと説示した。したがって、本件において、先使用商標やその使用商品が特定人の商標や商品と認識されたかどうかを判断するに当たっては、「建築用非金属製タイル、レンガ(セメントは除外)、非金属製タイル、コンクリートタイル」などといった本件登録商標の指定商品やこれと類似の商品に対する取引市場で判断すべきであって、「火山石のソンイで製造されるレンガやタイル」の取引市場に限定して先使用商標の使用商品が占める割合を考慮することはできないとし、原告の請求を棄却した。

専門家からのアドバイス

商標法第7条第1項第11号は、他人の商標との間に何らかの関係があるかのように見えるおそれがあり、これによって品質の誤認、出処の誤認・混同を防止する目的で規定された公益的商標不登録事由である。韓国商標法による指定商品の分類においては、たとえ同様に見える商品であってもその材質や用途によって非常に細分化されており、登録を受ける過程においては厳格に指定商品を記載することが要求されている。しかし、他人の商標が国内の一般取引において需要者や取引者に特定人の商標と認識され得る程度に知られているかどうかを判断するに当たって、考慮すべき「国内の一般取引においての需要者や取引者」の範囲については、そのような非常に細分化された指定商品に拘泥されるべきものではなく、当該条文の目的に照らせば、これを過度に狭く解釈することは立法趣旨にそぐわないと言える。

本件は、現在上告され大法院の最終的な判断が残ってはいるものの、審判院審決および特許法院判決は「登録商標の指定商品又はそれと類似の商品を取引する市場」を基準として特定人の商標と認識されているかどうかを判断しなければならないと説示し、「特定材質を用いた限定的な狭い市場」でのマーケットシェアを考慮対象と認定しておらず、他人の先使用商標やその商品との関係で商標の登録を考慮している場合や、自己の先使用商標やその商品と誤認混同を生じるとして他人の登録商標の有効性を争おうとする場合には、一定の判断基準になるものと思われる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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