知財判例データベース 「HFC、CDMA、光など幹線網を利用したデータ通信」を侵害対象製品とした侵害差止訴訟において、請求趣旨が特定されないとして却下したのは違法ではない
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- ○○○(原告、上告人)v. 韓電KDN株式会社(被告、被上告人)
- 事件番号
- 2011ダ17090
- 言い渡し日
- 2011年09月08日
- 事件の経過
- 確定
概要
326
民事訴訟において、請求趣旨が適切に特定されているか否かは職権調査事項であるが、実質的に請求趣旨を補正できる機会が与えられた場合は、形式的な請求趣旨の補正命令なしに訴えを却下したとしても原告に予測できない不利益を与えるものではないため、一般に違法であるとはいえないものである。そして、このような法理は、特許権侵害差止請求の対象である侵害対象製品が不明確なため請求趣旨が特定されていないと判断される場合にも同様に適用され得る。
事実関係
原告は、「変圧器の負荷監視と電力量計の検針を統合遂行する遠隔管理システム」に関する本件特許発明の特許権者である。原告は、被告が生産する本件被告製品が本件特許発明を侵害するとして、被告を相手取って、本件被告製品の製造・販売・広告に対する差止めを求めた。これに対して原審は、本件被告製品の説明書に記載された構成のうち「HFC、CDMA、光など幹線網を利用したデータ通信」に関する部分について、侵害差止請求の対象である被告が生産及び販売する製品が具体的に特定されていないため請求趣旨が特定されていないという理由により訴えを却下し、これと関連して別途に職権で補正を命じる等の措置は取らなかったところ、原告はこれを不服として大法院に上告した。
判決内容
大法院は、まず、民事訴訟において請求趣旨について、その内容及び範囲が明確に分かるよう具体的に特定されなければならないものであり、特許権に対する侵害の差止を請求する場合においても、請求の対象になる被告製品や方法は、社会通念上、侵害の差止を求める対象として他のものと区別できる程度に具体的に特定されなければならないと説示した。その上で、本件被告製品の説明書に記載された構成のうち「HFC、CDMA、光など幹線網を利用したデータ通信」に関する部分は、明示的に記載されたHFC、CDMA、光以外に幹線網を利用した他の方式のデータ通信の実施形態までも含むと見なすべきものであるところ、幹線網とは、様々な階層構造でなる全体網において、中枢回線の機能を有する部分であるということを意味するに止まり、具体的なデータ通信方式を示す用語ではないので、「幹線網を利用したデータ通信」という記載自体だけではデータ通信のためにどのような方式を利用するかが客観的・一義的に理解することができないものであると説示した。
そして、大法院は、本件の手続経緯に関し、原告が原審判決以前、上記の「HFC、CDMA、光など幹線網を利用したデータ通信」の構成を有する被告製品について特許審判院に権利範囲確認審判を請求したところ、当該部分の記載が不明確であり確認対象発明が不適法に特定されているという理由で審決が取り消されているという経緯がある上、本件原審訴訟手続きでも本件被告製品の特定がなされているか否かを争う内容の準備書面を原告が数回提出するなどしており、これらの経緯を考慮すれば、原審において形式的な請求趣旨の補正命令なしに本件訴えを却下したとしても原告に予測できなかった打撃を与えるものではなく、原告に実質的に請求趣旨の補正の機会が与えられたと見ることができるから、別途の補正命令なしに訴えを却下した原審の手続きは妥当であるとして、原審判決を支持した。
専門家からのアドバイス
請求趣旨の特定と関連し、従来大法院判例の見解は「民事訴訟において請求の趣旨はその内容及び範囲が明確に分かるよう具体的に特定されなければならず、これの特定如何は職権調査事項と言えるため、請求趣旨が特定されない場合には法院は被告からの異議の有無にかかわらず職権でその補正を命じ、これに応じない時には訴えを却下しなければならない」とされていた(大法院1981年9月8日言渡80ダ2904判決等)。そして、本件判決は、これを進めて、実質的に原告に請求趣旨を補正できる機会が与えられた場合、補正命令という手続きを必ずしも要さず訴えを却下することを認容したものである。
特許侵害事件の場合、侵害差止の対象である被告の製品に原告が容易に接近し難いという特性があり、また侵害品の範囲に当事者間の重要な利害関係が存在し得るなど、被告製品の特定は必ずしも容易ではないが、権利者としては、形式的な補正命令の有無にこだわらず、法院の訴訟指揮などに従い、必要な補正や証拠資料追加について万全を期する必要がある。
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