知財判例データベース 冊子中の一部が類似したとしても、その類似部分に対する創作性が認められなければ著作権侵害に該当しない
基本情報
- 区分
- 著作権
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- ○○○(被告人、被上告人)v. 検事(上告人)
- 事件番号
- 2009ド291
- 言い渡し日
- 2011年02月10日
- 事件の経過
- 確定
概要
301
他人の著作物と表現及び構成が類似の著作物であるとしても、著作権侵害如何を判断するために2つの著作物間の実質的類否を判断するときには創作的な表現形式に該当する部分だけを対比しなければならないため、旅行冊子の地図部分、説明部分及び編集構成部分が一部類似していたとしても、その類似の部分に対する創作性が認められなければ著作権侵害に該当しない。
事実関係
被告人は被害者が著作権を有する「○○天下ヨーロッパ」という旅行冊子の内容に沿って、配列や単語の一部を変える方法で「○○○ワールドヨーロッパ」という旅行冊子を発刊及び配布することにより被害者の著作権を侵害したとして起訴されたが、原審法院は上記の旅行冊子の間に実質的類似性が認められないという理由で無罪を言渡、検察側はこれを不服として上告した。
判決内容
大法院は、上記の旅行冊子のうち、地図部分に関して、一般的に地図は地表上の山脈・河川などの自然的現象と道路・都市・建物などの人為的現象を一定の縮尺で特定の記号を使用して客観的に表現したものであって、地図上に表現される自然的現象と人為的現象は事実そのものであるだけで著作権の保護対象ではないと言えるため、地図の創作性有無を判断することにおいては地図の内容となる自然的現象と人為的現象を従来とは異なる新しい方式で表現したとか、その表現された内容の取捨選択に創作性があるかなどが判断の基準になるべきであるという法理に基づき、本件地図部分は、自然的現象と人為的現象が従来の通常の方式と異なるように表現されてはおらず、表現された内容の取捨選択も一般的な地図と変わりないため、著作物として保護できる創作性が認められないと判断した。次に、観光地、見物、食べ物などを主観的に描写したり説明している部分に関し、「○○天下ヨーロッパ」の表現を構成している語彙や構文と類似に見える語彙や構文が「○○○ワールドヨーロッパ」で一部発見されるが、以前の他の旅行冊子でも容易に見つけることができる程度の通常的な表現方式によって普通に記述したに過ぎないか、誰がしても同一であるか類似に表現せざるを得ないため、創作性を認めることができない表現を除いては、そういう語彙や構文が冊子全体に占める質的・量的比重が微小で「○○天下ヨーロッパ」の創作的特性が「○○○ワールドヨーロッパ」で感知されるとはみなし難いという理由で実質的類似性があるとは言えないと判断した。最後に、編集構成部分に関し、編集物の場合には一定の方針あるいは目的を持って素材を収集・分類・選択し配列する等の作成行為に編集著作物として保護を受ける価値があるだけの創作性が認められなければならないという法理に基づき、たとえ上記の冊子が全体的に都市情報、交通、旅行コース、見物、食べ物、ショッピング及び宿泊情報、地図などで構成されているという点で共通点があるとしても、これは多数の旅行冊子が取っている一般的な構成形態であるだけで、それに対する創作性を認めることができず、「○○天下ヨーロッパ」の編集構成のうち、被害者の蓄積された旅行経験と知識に基づき、必要な情報だけを取捨選択して自らの編集方式で記述したという点で創作性が認められる部分については「○○○ワールドヨーロッパ」の編集構成と比較すると具体的に選択された情報、情報の分類及び配列方式などにおいて大きな差が見いだされるため実質的類似性があるとは言えないと判断した。このような判断に基づき、大法院は上記の旅行冊子の間に実質的類似性がないとみなし本件控訴事実を無罪と判断した原審判決は正当であると判示し、上告を棄却した。
専門家からのアドバイス
著作権法により保護される著作物に該当するための要件としての創作性は、完全な意味の独創性を求めるのではないとしても、少なくともその作品が単純に他人のものを摸倣したものであってはならず、作者自身の独自の思想や感情の表現を盛り込んでいなければならないため、誰がしても同じか類似するしかない表現、即ち、著作物作成者の創造的個性が見えない表現を盛り込んだものは創作物であると言えないというのが大法院判例の解釈である。本件で問題となっている旅行案内冊子は、同一の地域を対象とする冊子が多数存在しており、その説明対象となる地形及び人や建物も同一である反面、これらを表現する方式は制約的とならざるを得ないという特性があるところ、このような類いの著作物に著作権の保護範囲を幅広く認めてしまうと、過度に競争を制限することになる危険がある。この意味においては、著作権の保護対象になり得る範囲を制限的に解釈している本件判決は、独占排他的な色合いの濃い特許権とは異なり著作物の有効活用を図ろうとする著作権法の立法趣旨から見ても妥当であると言える。ただし、判決文の中でも触れられているように「素材の選択・配列又は構成に創作性があるもの」は編集著作物として権利主張できる可能性も生れてくるため、旅行ガイドや案内冊子といった類の著作物であっても、著作権の主張がまったくできないと決め付けてしまうのは短絡に過ぎると思われ、著作者としては常に独創的な表現や構成を念頭におきつつ十分な労力を投入して工夫を凝らしつつ編集していくことが求められる。
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