知財判例データベース 教科書などを利用許諾なしに講義教材としてオンライン講義を行う行為は著作権侵害行為であるが、市場支配的地位にいる著作権者の利用許諾自体の拒絶は権利濫用に該当
基本情報
- 区分
- 著作権
- 判断主体
- ソウル中央地方法院
- 当事者
- 株式会社天才教育他5(申請人)v. メガスタディー株式会社(被申請人)
- 事件番号
- 2011カ合709
- 言い渡し日
- 2011年09月14日
- 事件の経過
- 抗告
概要
330
教科書及び評価問題集などを講義教材として活用してネット回線を通じたオンライン講義を行う行為は、教科書及び評価問題集等に関する2次的著作物作成権等の著作権を侵害する行為に該当する。そして、当該講義の形態は、「学校」には当たらず、さらに、著作権法第28条で規定している「正当な範囲内においての公正な慣行に合致した引用」などの著作権行使の制限事項に該当するとも見難しい。しかし、教科書及び評価問題集の著作権者がこれを独占して第三者に利用許諾を拒絶する行為は市場支配的地位の濫用行為に該当し得るため、著作権者が第三者によるオンライン講義の複製、公演及び伝送行為自体に対する差止を求めることは権利濫用に該当する。
事実関係
申請人である株式会社天才教育は、教育科学技術部長官の検定を受けた教科書と各教科書別評価問題集(以下「本件著作物」とする)を出版する会社であり、他の申請人は本件著作物の代表著者である。一方、被申請人はインターネットウェブサイトを利用したオンライン講義専門会社として申請人から利用許諾を受けず本件著作物を講義教材として利用していた。これに対して申請人は被申請人が本件著作物を利用してオンライン講義を製作、供給する行為が著作権を侵害する行為であると主張し、オンライン講義の複製、公演及び伝送する行為の差止を求める仮処分申請を提起した。
判決内容
法院は、まず被申請人のオンライン講義が本件著作物に対する著作権侵害を構成するか否かについて、当該オンライン講義には講師それぞれの創作的な表現で説明する部分が付加されているため、社会通念上新しい著作物になり得る程度の創作性が付加されたと言えるものの、これは本件著作物の創作的な表現の本質的な特性を害しない範囲内での修正・増減・変更を行ったに過ぎず、被申請人のオンライン講義は本件著作物に対する2次的著作物作成権及び同一性維持権を侵害する余地が多いと判断した。
さらに、被申請人がオンライン講義を通し本件著作物を使用する行為が著作権の制限に該当するか否かについて、被申請人が学習塾・予備校であって終生教育法又はその他の特別法により設立された「学校」には該当しないため、著作権法第25条第2項[1]で規定している「終生教育施設の教育を目的とする利用」には該当しないと判断した。その上で、著作権法第28条[2]で規定している「正当な範囲内における公正な慣行に合致した引用」に該当するかどうかと関連しても、教育目的が一部加味されてはいるものの、オンライン講義での利用が根本的に商業的・営利的であるという点、オンライン講義で本件著作物から引用した表現を全て除去すれば残りの部分だけでは実質的な価値を有し難いという点、一般的な学習塾・予備校での講義とは異なりオンライン講義の場合には地域的・時間的制限から脱して反復受講が可能であるという側面において継続性と波及力を有するという点、申請人が本件著作物を教材とするオンライン講義市場で享受することができる潜在的価値が毀損され得るという点などを考慮し、「正当な範囲内における公正な慣行に合致した引用」には該当しないと判断した。
一方、申請人が被申請人に対して本件著作物に対する利用許諾を拒絶した行為が公正取引法違反に該当するかどうかと関連し、既に特定教科書を採択した学校の学生を対象とした教育市場と関連市場の観点からみれば、申請人は公正取引法上、市場支配的事業者としての地位にいると見られ、申請人が被申請人のようなオンライン講義企業に本件著作物の利用に関する取引を拒絶することにより発生する競争制限効果は非常に大きく、申請人の取引拒絶の主な目的が他の競合企業との競合関係をなくして本件著作物を利用したオンライン講義市場を独占しようとすることであったという点などを考慮するれば、申請人の取引拒絶は市場支配的地位の濫用行為に該当する余地が多いと判断した。さらに、公正取引法第59条は「この法の規定は著作権法、特許法、実用新案法、デザイン保護法又は商標法による権利の正当な行使であると認められる行為に対しては適用しない」と規定しているため、たとえ著作権の行使であるとしても正当でない場合であれば公正取引法の適用対象となるべきであって、申請人の取引拒絶行為は市場支配的地位の濫用行為に該当するという点、被申請人から相当な利用料が支払われることにより申請人の損失を補填することが可能であるという点、教育消費者の利益のために充分な競争性の確保が必要であり教科書には公共性が認められなければならないという点等に照らせば、申請人が利用に対する正当な補償を越えて利用許諾自体を拒絶することは「著作権の正当な行使」に該当しないと判断した。
したがって、申請人が本件仮処分申請を通して被申請人がオンライン講義の複製、公演及び伝送する行為自体に対する差止を求めることは社会通念上受け入れ難い不当な結果を引き起こす等公共福利のための権利の社会的機能を無視するものとして権利濫用に該当すると判断し、本件仮処分申請を棄却した。
専門家からのアドバイス
本件決定は、「学校」には該当しないオンライン講義において教科書などを使用した場合、一般の学習塾・予備校における講義と異なり、地域的・時間的制限から脱して反復受講が可能であり継続性と波及力を有すること等を考慮し、著作権法第28条で定めている「正当な範囲内における公正な慣行に合致した引用」に該当しない旨の判断を下したものである。しかし、これは教科書が有する公共性、インターネット講義が消費者に提供し得る便益などを考慮すると多少消極的な法理解釈ではないかと考えられる。
また、公正取引法を適用して著作権行使を規制することが望ましいか否か、これまでも見解の対立が存在していたが、本件決定では、事情に照らし、その行為が市場支配的地位の濫用行為に該当するものである場合等、著作権の行使として正当でない場合には、公正取引法の適用対象になるものであるという点を明らかにしたため、今後著作権など知的財産権の行使の適法性如何を判断する際には一定の参考となり得るであろう。しかし、市場支配的地位の乱用行為等という理由だけで漫然と知的財産権行使が正当でないと判断するのは、むしろ公正取引法第59条の規定が死文化するおそれもあり、公正取引法の趣旨と知的財産権保護の必要性などを適切に価値の衡量を図る必要があり、このような側面から上級審の判断を注目する必要がある。
注記
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第25条(学校教育目的などへの利用)
(2)特別法により設立され、又は「乳児教育法」、「初・中等教育法」若しくは「高等教育法」による学校、国家又は地方自治体が運営する教育機関及びこれら教育機関の授業を支援するために国又は地方自治体に所属する教育支援機関は、その授業又は支援の目的上必要と認められる場合には、公表された著作物の一部分を複製・配布・公演・放送又は伝送することができる。ただし、著作物の性質又はその利用の目的及び形態などに照らし著作物の全部を利用することがやむを得ない場合には、全部を利用することができる。
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第28条(公表された著作物の引用)公表された著作物は、報道・批評・教育・研究などをためには、正当な範囲内において公正な慣行に合致するようにこれを引用することができる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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