知財判例データベース 積極的権利範囲確認審判において、特許権が消尽したという事情は権利範囲への属否を確認することとは関連がない

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
○○○他1(原告、被上告人)v.○○○(被告、上告人)
事件番号
2010フ289
言い渡し日
2010年12月09日
事件の経過
確定

概要

337

確認対象発明が特許権の権利範囲に属するという確認を求める積極的権利範囲確認審判の場合、確認対象発明の実施と関連した特定の物との関係で特許権が消尽したとしてもそのような事情は確認対象発明が特許権の権利範囲に属するかどうかに対する確認を求めることとは何ら関連がない。

事実関係

原告らは、被告が実施している「血粉飼料製造方法」に関する確認対象発明は自分が共有している「有機性廃棄物を瞬間高温処理して飼料を製造する方法」に関する特許(以下「本件特許」)の権利範囲に属するとして積極的権利範囲確認審判を請求した。特許審判院は、被告の確認対象発明は本件特許と同一又は均等範囲に属すると判断しながらも、被告が使用している飼料製造設備は本件特許の共有特許権者のうちの1人が所有していたものを譲り受けたものあるため、原告の特許権は被告が実施している確認対象発明に対する関係において既に消尽したとして原告の請求を棄却した。そこで、原告は審決取消訴訟を提起し、特許法院は被告の飼料製造設備が本件特許の共有特許権者のうちの1人が所有していたものを譲り受けたものだとしても他の共有権者の同意があったことを認める証拠がないとして、特許権が消尽したという被告の主張を排斥し原告の請求を認容したところ、被告はこれを不服として大法院に上告した。

判決内容

原審は方法の発明に関する特許権が共有の場合、韓国でその方法の実施にのみ使用する物が譲渡されたとしても、その物が共有者のうち一部の所有であり、それ以外の他の共有者がその物の譲渡に対し同意をしたところがなければ、譲受人又は転得者がその物を利用し該当方法の発明を実施することと関連して特許権は消尽していないと見なければならないとして、被告の主張を排斥した。

しかし、積極的権利範囲確認審判において特許権消尽理論が適用され得ることを前提に判断した原審と異なり、大法院は特許権の積極的権利範囲確認審判は特許発明の保護範囲を基礎として審判請求人が確認対象発明に対し特許権の効力が及ぶかどうかを確認する権利確定を目的としたものであるため、仮に確認対象発明の実施と関連した特定の物との関係において特許権が消尽したとしても、そのような事情は、特許権侵害訴訟における抗弁として主張することはともかく、確認対象発明が特許権の権利範囲に属するという確認を求めることとは何ら関連がないと判示した。大法院はこのような法理に基づき被告の確認対象発明が本件特許発明と同一又は均等の範囲に属するという点が認められる以上、本件特許権が消尽したかどうかに関する被告の主張に対する判断は不要であるとして、これに対する特別な説示なく被告の上告を棄却した。

専門家からのアドバイス

原審は、方法の発明に対する特許権者が韓国でその方法の実施にのみ使用する物を譲渡した場合でも、譲受人又は転得者がその物を利用し該当方法の発明を実施することと関連して特許権が消尽し得るという点を認め、さらにその方法の発明に関する特許権が共有の場合にはその方法の実施にのみ使用する物を譲渡することにおいて共有者全員の同意があってこそ特許権が消尽すると判断することにより共有方法発明の特許権消尽に関する説示をした。しかし、大法院は権利範囲確認審判は、確認対象発明の実施と関連した特定の物との関係において特許権が消尽したかどうかは何ら関連がないとし、上記のような争点に対する判断をあえて行わなかったのである。この判断は、特許消尽に関する主張は侵害訴訟での抗弁事由に該当するものであって、積極的権利範囲確認審判で判断できる適切な抗弁事由でないという点を前提としているが、その根拠に対しては明確な理由を提示していない。上記の大法院の考え方によると、特許権の消尽については別な侵害訴訟を起こさなければ争うことができないことになり、不経済であると言える。審判段階においても特許権の消尽についての判断が参考できるように判示されていれば、より望ましかったのではないかと思われる。本件については特許権の消尽に関する原審の判断が大法院により覆されずそのまま残っているわけであるから、侵害訴訟が別途提起された場合には、原審の判断が大きな影響力を持つであろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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