知財判例データベース 通常使用権者の不正使用に対し商標権者が相当の注意を払わなかった と判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
○○他1人(原告)v.株式会社シュペリア(被告)
事件番号
2009ホ7314
言い渡し日
2010年02月12日
事件の経過
上告

概要

268

商標法第73条第1項第8号[1]但書きで規定している商標権者の「相当の注意」とは、誤認・混同を生じさせないようにとの注意や警告をした程度では十分でなく、使用実態を実質的・定期的に監督したり、報告を受けていたりという方法で使用権者を実質的にその支配下に置いているような関係が維持されていることが認められなければならない。また、商標登録の取消事由を定めた商標法第73条第1項各号の規定は公益のための制裁的性質を持った規定であり、継続的な譲渡・譲受により上記の規定を潛脱する結果が発生することを防止すべき必要があるため、上記の規定に該当する行為の責任はその登録商標権者の承継人にも及ぶと見なければならない。

事実関係

被告は原告を相手に原告の登録商標[2](以下「本件登録商標」)が3年以上国内で使われなかったことを理由に商標法第73条第1項第3号による取消審判を請求したが、特許審判院は本件登録商標が国内で使われたという原告の主張を受け入れ被告の請求を棄却した。これに対して被告は審決取消訴訟を提起し、特許法院は本件登録商標が商標法第73条第1項第3号により取り消されるべきであると判断したものの、上告で大法院は特許法院の判決を破棄差し戻しした。

特許法院は大法院の差し戻し判決により事件を再審理した後、商標法第73条第1項第3号でない、使用権者の不正使用に関する商標法第73条第1項第8号に基づき原告の通常使用権者が本件登録商標を変形させ「」(以下「実使用商標」)のように使用したことは一般需要者に被告が使用してきた「」商標と誤認・混同を生じさせるとして本件登録商標が取り消されるべきであると判断し、本判決は上告されないまま確定した。その後、特許審判院が上記の確定判決により本件登録商標が取り消されるべきであるという審決を下したところ、今度は、原告は商標法第73条第1項第8号における「相当の注意を払った」と主張し、審決取消訴訟を提起した。

判決内容

法院は、商標法第73条第1項第8号但書きで規定している商標権者の「相当の注意」とは、誤認・混同を生じさせないようにとの注意や警告をした程度では十分でなく、使用実態を実質的・定期的に監督したり、報告を受けていたりという方法で使用権者を実質的にその支配下に置いているような関係が維持されていることが認められなければならず、また商標登録取消事由を定めた商標法第73条第1項各号の規定は公益のための制裁的性質を持った規定であり、継続的な譲渡・譲受により上記の規定を潛脱する結果が発生することを防止すべき必要があるため、上記の規定に該当する行為の責任はその登録商標権者の承継人にも及ぶと見なければならないと判示した。法院はこのような法理に基づき、本件登録商標の通常使用権者が実使用商標を約3年間37回にわたり広告した不正使用の回数と期間に照らし原告及び原告に本件登録商標を譲り受けた権利者が商標法第78条第1項第8号本文所定の事由が発生しないよう相当の注意を払ったとはみなせないと判断し、原告の請求を棄却した。

専門家からのアドバイス

商標法第78条第1項第8号は登録商標権者に使用権者の商標使用行為を管理・監督させることにより、使用権者が登録商標を誤って使用し需要者に品質を誤認させたり他人の商品と混同させることを防止するための公益的規定である。登録商標が商標法第78条第1項第8号に該当する場合には商標登録が取消しとなり得るという制裁が加えられるだけに、商標権者としてはその取消しを免れるために商標権者が相当な注意を払ったという点を明らかにする必要がある。しかし、多くの場合において商標権者は使用料をもらうだけで使用権者の登録商標をどのように使用しているかについては管理がおろそかになりがちである。本事件でも原告はたとえ商標管理人を雇用し同人を通して通常使用権者の商標使用行為を管理する等、相当の注意を払ったと主張しても、法院は原告の主張を信じることができないと排斥し通常使用権者が実使用商標を広告した期間と回数などのように客観的に表れる証拠に照らし商標権者が相当の注意を払わなかったと判断した。特に、本件では通常使用権者の商標使用期間中に本件登録商標が原告に譲り受けられたところ、法院は譲渡人が相当の注意を払わなかった責任は譲受人である原告にも及ぶと判示し、商標法第78条第1項第8号の公益的性格を強調した。

このケースを教訓として、使用権を設定している商標権者は今からでも使用権者の商標使用実態を確認し、それに対する管理・監督をより強化しなければならず、特に使用権が設定された登録商標を譲り受けた者は、譲受以前の商標使用実態をきちんと確認しておく必要がある。

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