知財判例データベース 国内個人が先取りしたドメイン名に対し韓国内の商標権と営業事実のない米国会社が米国内の商標権と営業事実だけで正当な権原が認められた事例

基本情報

区分
商標,ドメイン
判断主体
大邱地方法院
当事者
○○○(韓国個人;原告)v. Varsity Spirit Corp.(被告)
事件番号
2009ガ合11550
言い渡し日
2010年08月17日
事件の経過
控訴

概要

287

インターネット住所資源に関する法律(以下「インターネット住所資源法」とする)第4条は「本法は韓国で割り当てられるインターネットプロトコル住所と韓国で登録・保有又は使用されるドメイン名などのインターネット住所資源に対して適用される」と規定しているため、国家別最上位ドメインである.krだけでなく一般最上位ドメインにも適用される。

事実関係

被告は、1948年米国で設立された全国チアリーダー連合会(National Cheer leaders Association)と関連して1952年から使われ1997年頃米国に、2002年頃ヨーロッパに各登録された「NCA」という商標の商標権者である米国会社であり、原告は2000年頃韓国のドメイン名登録機関である株式会社サイデンティティを通じて「nca.com」というドメイン名(以下「本件ドメイン名」とする)を登録した韓国個人である。被告は2008年8月頃米国の国家仲裁委員会(National Arbitration Forum)に原告を相手取って原告が正当な権利なしに悪意で被告の商標と類似のドメイン名を保有しているという理由をあげそのドメイン名を被告に移転登録する命令を要求する紛争処理申請をし、上記の委員会は被告の申請を受け入れた。原告はこれを不服とし本件ドメイン名に関して被告の原告に対する登録移転又は使用差止請求権が存在しないことを確認する趣旨の訴えを提起した。

判決内容

法院は、被告の本件ドメイン名使用差止請求権と移転登録請求権の判断基準に関連し、インターネット住所管理機構(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers,「ICANN」)が設けた統一ドメイン名紛争解決方針(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy,「UDRP」)はドメイン名の登録人と第三者の間でこれを紛争解決の基準とすることに合意するなどの特別な事情がない限り拘束力を持つものではないため、判断基準になり得ず、米国の反サイバースクワッティング[1]消費者保護法(Anti cyber squatting Consumer Protect Act,「ACPA」)は米国商標権の独占的排他的効力に基づいているため、上記の法律により韓国でのドメイン名の登録抹消や移転登録を認めることは商標権の属地主義に反する結果をもたらすため認めることができないと判断した。

ただし、2009年9月に改正されたインターネット住所資源法第4条は「本法は韓国で割り当てられるインターネットプロトコル住所と韓国で登録・保有又は使用されるドメイン名などインターネット住所資源に対して適用される」と規定し、その適用範囲を韓国の国家(kr)コードを有するドメイン名に限定せず、韓国で登録・保有又は使用される全てのドメイン名にまで拡大したため、これにより国家別最上位ドメインである.krだけでなく本件ドメイン名を含む一般最上位ドメインにもインターネット住所資源法が適用されるとして、結局、原告が本件ドメイン名を登録・保有又は使用した行為は「何人も正当な権原のある者のドメイン名などの登録を妨害したり正当な権原のある者から不当な利益を得る等の不正な目的でドメイン名などを登録・保有又は使用してはならない」と規定しているインターネット住所資源法第12条第1項に違反する行為であると判断し、「正当な権限のある者は、第1項に違反しドメインネームなどを登録保有又は使用した者があれば、法院にそのドメインネームの登録抹消または登録移転を請求することができる」と規定している同法第12条2項を根拠に原告の請求を棄却した。

専門家からのアドバイス

韓国は商標権に関して属地主義の原則を採用しているため、各国の商標権は該当国家の領域内でのみ効力を有し、韓国では外国商標権の効力は認められないのが原則である。従って、韓国で商標権を持っていない場合、外国商標権に基づいて韓国でドメイン名の使用禁止や移転登録を求めることはできない。ただし、2009年9月10日から改正されたインターネット住所資源法が施行されたことによりインターネット住所資源法の適用範囲が韓国の国家コード(kr)を持つドメイン名に限定されず、韓国で登録・保有又は使用される一般最上位ドメイン名にまで拡大され、その結果、韓国では正当な権原がないとしても外国でドメイン名に対する正当な権原を持っている権利者(本件では米国やヨーロッパで「NCA」という登録商標を長期間にわたり保有していることを根拠として正当な権限と認定した)であれば韓国で不正な目的でドメイン名を登録・保有又は使用している行為者に対してドメイン名の登録抹消又は移転を請求できるようになった。本件については、控訴され高等法院がどう判断するかは不明であるが、この判例は上記のインターネット住所資源法の改正趣旨を確認するものとして、韓国内に商標権などの権利を持たない外国権利者にとって大いに意味のあるものと言える。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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