知財判例データベース 秘密維持約定がないままテスト目的で納品された製品に対してテストを行った場合、当事者にはこれに対する秘密維持義務が認められないと判断した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
株式会社ディーシーエフトラック他1人(原告)v.○○○(被告)
事件番号
2010ホ197
言い渡し日
2010年07月23日
事件の経過
未確認

概要

284

被告がフィールドテスト(field test)のために比較対象発明が施された製品を原告会社に納品し、原告会社がこのフィールドテストを行った場合、フィールドテストの過程でテストに参加した者が比較対照発明を認識できる状態に置かれ、原告会社と被告が比較対象発明のリンクシールに関する技術を秘密に維持するよう約定したところがなく、テストを経た後に完成品を生産することと取り決めたという事情だけでは暗黙的秘密維持義務が認められるとは見られないため、比較対象発明は公知となったとみることができる。

事実関係

被告は「無限軌道用トラックのリンクシール及びその製造方法」に関する原告の特許(以下「本件特許発明」とする)に対して、本件特許発明の出願以前に被告が原告株式会社ディーシーエフトラック(以下「原告会社」とする)に納品したブルドーザの無限軌道用トラックに設置されたリンクシールに関する比較対象発明によって進歩性が否定されるという理由で特許無効審判を請求したところ、特許審判院は進歩性がないとして被告の請求を認容した。これに対し原告らは原告会社が本件特許発明の出願前に被告から比較対象発明のリンクシールの納品を受けてフィールドテストを実施した事実はあるが、上記のリンクシールはテストを通過できない限り正規製品として販売できない状態にあり、テストに参加した人々に明示上又は暗黙的秘密維持義務があったため、本件特許発明の出願前に比較対象発明のリンクシールに対するフィールドテストを実施したからといって比較対象発明が公知となったとみることはできないとの理由を挙げて審決取消訴訟を特許法院に提起した。

判決内容

特許法院は、比較対象発明が本件特許発明の出願前に公知となったかどうかと関連し、比較対象発明は被告が原告会社に納品してフィールドテストを行う過程において原告会社の職員らが認識できる状態に置かれていたと言えるため、たとえテストを経た後に商業化することと取り決めていたとしても、原告会社と被告が比較対象発明を秘密に維持することを約定したという特別な事情がない限り本件特許発明の出願日以前に公知となったとみるものであり、比較対象発明のテストに参加した人々に明示上又は暗黙的秘密維持義務があるという原告の主張は、原告会社と被告が比較対象発明のリンクシールに関する技術を秘密に維持するよう約定したという点を認める何らの証拠がなく、テストを経た後に完成品を生産することにしたとの事情だけでは暗黙的秘密維持義務があったと断定し難く、むしろ上記のリンクシールのテスト過程で原告会社の職員でない本件車両の所有者らが参加しそのテスト結果を報告までしているため、上記のフィールドテストが秘密裏に行われたと見ることもできないという点に照らして受け入れることができないと判断し、結局本件特許発明は比較対象発明により進歩性が否定されるという理由で原告の請求を棄却した。

専門家からのアドバイス

特許法上の公知の発明とは、公然と知られていること、即ち、秘密でない状態で一般の第三者に公開されている技術的思想を意味し、秘密でない状態で第三者が客観的に認識できるのであれば充分であり、第三者がそれを現実的に認識したかどうかは問題にならない。本件では、フィールドテストに参加したのは本件特許が無効であると主張する納品業者と、本件特許の出願人である発注会社、およびテスト車両の所有者で、第三者と言えるのは車両の所有者だけであるが、この第三者にまで客観的に認識される可能性があるため、明示的・暗黙的な秘密維持義務がないのなら、この技術は公知となったものと判断されたわけである。

ただし、本件では触れられていないが、第三者が客観的に知りうる状態というのは、その発明の技術内容が特別な努力無しに把握できる形でなければならず、例えばブラックボックスに密閉された状態で、その発明の技術的構成などが容易に分からない場合には、公知であるとは言えないとされる可能性があり、本件の場合にも車両の所有者がテスト結果を報告したとはいえ、本当に車両の所有者が本件発明の技術内容まで把握可能であったかどうかについてまで具体的に考察しこれについて言及すべきであったと思われる。

発注会社が子会社や関連会社から部品などの納品を受け、共にディスカッションやテストをしながら製品化を進めるといったケースは多い。これらの全ての場合において暗黙的秘密維持義務は認められないから秘密維持約定などが必要であるとするのは、現実的ではなく、発明者と出願人の関係者だけが密閉空間・制限区域内で技術内容を公開する場合であれば特段の問題は生じないと考えられる。

本件を通じて、発注会社としては、第三者が介入している場合には納品された開発品と研究資料の非公知性を維持するためにこの第三者と明示上の秘密維持約定を事前に締結し非公開でテストを行う等の措置を行なう努力をする必要があると言う教訓が得られよう。また、納品業者の立場から見ると、勝訴したとは言え、フィールドテストにより公知となったから進歩性が否定されると主張するよりは、納品もしくはフィールドテストをしたリングシールにより発注会社が技術内容を知って「冒認出願」したと主張する方法も十分にとれたのではないかと思われる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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