知財判例データベース 登録無効審判請求で無効の効果を発生させる事由に関する主張が既存の確定審決と異なって変更されたり追加されたのであれば、一事不再理に該当しないと判断した事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 株式会社セウンティー.エヌ.エス(原告)v. 株式会社ソンヒョンパーライト(被告)
- 事件番号
- 2009ホ7444
- 言い渡し日
- 2010年06月04日
- 事件の経過
- 上告
概要
279
一事不再理の原則により、審判の審決が確定した場合には同一事実及び同一証拠によって再度審判を請求することができないが、特許の登録無効審判において無効の効果を発生させる事由である進歩性の欠如と未完成発明、記載不備は各々別個の事実であって同一事実に該当しないため、進歩性の欠如を理由とする登録無効審判請求に対する審決が確定したとしても、記載不備に該当する、又は異なる証拠により進歩性が否定されるという理由を挙げて登録無効審判請求を再度行うことは一事不再理に該当しない。
事実関係
訴外甲は「ガラス繊維マットを利用した断熱用パイプの製造方法」に関する原告の特許(以下「本件特許発明」とする)に対して比較対象発明1により進歩性が否定されると主張し登録無効審判を請求したところ、特許審判院は訴外甲の請求を棄却し本件特許発明は無効ではないとする審決を下し、後日確定した。その後、被告は本件特許発明に対して、発明の詳細な説明が通常の技術者(当業者)が容易に実施できる程度に記載されておらず、さらに比較対象発明1、2、3によって進歩性が否定されると主張して登録無効審判を再度請求し、特許審判院は記載不備には該当しないものの、比較対象発明1、2、3により進歩性が否定されるという理由で被告の請求を認容する無効審決を下した。これに対して原告は被告の審判請求が一事不再理に該当して不適法であるという理由で特許審判院の審決に対する取消訴訟を特許法院に提起した。
判決内容
特許法院は、旧特許法第163条は「この法による審判の審決が確定登録されたり判決が確定されたときには何人も同一事実及び同一証拠によってその審判を請求することができない」という一事不再理の原則を規定しているところ、一事不再理の効力が及ぶための要件として、同一事実とは同一権利に対して同一な原因を理由とする特定の事実を示すものであって、特許の登録無効審判において無効の効果を発生させる事由である進歩性の欠如と、未完成発明、記載不備などはそれぞれ別個の事実を構成すると言えるため、確定した審決が比較対照発明1による進歩性の欠如を理由とする登録無効審判請求に対して行われたものである場合、改めて特許が記載不備に該当し比較対象発明1、2、3により進歩性が否定されるという理由を挙げて登録無効審判請求をすることは異なる事実による審判請求となるから一事不再理に該当しないと判示した。特許法院は、本件の場合、従来の確定審決は比較対象発明1により本件特許発明の進歩性が認められないということを理由とする登録無効審判請求に対し行われたものであり、本件登録無効審判請求は比較対象発明1による進歩性の欠如の他にも本件特許発明の詳細な説明に記載不備があるということをその請求理由としているため、従来の確定審決と本件登録無効審判請求のうち、記載不備の主張部分は異なる事実による審判請求になり、従って、この部分については本件登録無効審判で追加提出された比較対象発明2、3が進歩性に関する上記の従来の確定審決の結論を覆すことができる程度に有力な証拠に該当するかどうかと関係なく本件登録無効審判請求は一事不再理には該当しないと判示し、さらに本件特許発明は記載不備には該当しないものの、進歩性欠如については、追加提出された比較対照発明2、3により進歩性が否定されるという理由で原告の請求を棄却した。
専門家からのアドバイス
特許審判院の審決は、対世効(当事者だけでなく社会全般の人々にも同じ法律的効力が及ぶという意味)を持っているため、当該審判手続きに直接関与しなかった一般の第三者にも一事不再理の効力が及ぶことになる。従って、誰かが先ず無効審判などを請求して敗訴確定した場合、他人が新しい事実と新しい証拠に基づき、十分に無効であることを立証できるにもかかわらず、その機会が封鎖されてしまうことは不当なだけでなく特許制度の趣旨からも逸脱することになる。
本件で特許法院は、登録無効審判で一事不再理の原則が適用されるための「同一事実」の意味と関連して、無効の効果を発生させる事由である進歩性の欠如と未完成発明、記載不備は各々別個の事実であって同一事実ではないと言い切り、さらに同一の比較対象発明1以外に比較対照発明2及び3が新たに提出されているため同一証拠ではないから進歩性欠如についても一事不再理の原則に反しておらず比較対照発明1、2、3を考察すれば進歩性が欠如しているとして被告の主張を認めたのである。まだ大法院の判断が残っているが、このような特許法院の判断は、新しい事実に基づいた審判請求の機会を不当に制限してはならないという制度趣旨に符合するものと評価できる。
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