知財判例データベース 競業禁止約定が善良な風俗、その他の社会秩序に反する行為として無効と判断された事例

基本情報

区分
不正競争
判断主体
大法院
当事者
ベル金属工業株式会社(原告、上告人)v.○○○(被告、被上告人)
事件番号
2009ダ82244
言い渡し日
2010年03月11日
事件の経過
確定

概要

275

使用者と勤労者の間に競業禁止約定が存在するとしても、勤労者の職業選択の自由と勤労権などを過度に制限したり自由な競争を過度に制限する場合には民法第103条に定めた善良な風俗、その他の社会秩序に反する法律行為として無効と見なければならず、競業禁止約定の有効性に関する判断は保護する価値のある使用者の利益、勤労者の退職前地位、競業制限の期間・地域及び対象職種、勤労者に対する代価の提供有無、勤労者の退職経緯、公共の利益及びその他の事情などを総合的に考慮しなければならず、「保護する価値のある使用者の利益」とは、「営業秘密」だけでなくその程度に至らなかったとしても当該使用者だけが持っている知識又は情報としてこれを第三者に漏洩しないように勤労者と約定したものであるとか、顧客関係や営業上の信用の維持もこれに該当する。

事実関係

原告と被告は「被告が原告会社を退職後、2年以内には原告会社と競争関係にある会社に就職したり直接・間接の影響を及ぼしてはならない」という内容が含まれた競業禁止約定を締結したが、被告は原告会社を退職した直後、原告と競争関係にある中継貿易会社を設立・運営するとともに中国業者に請け負わせることにより、原告会社が米国のバセット(BASSET)社に納品した実績のあるツメ切りセット、つめ美容セットなどと一部類似の製品をバセット社に納品した。原告はこのような被告の行為に対して競業禁止約定違反又は不正競争行為などの不法行為による損害賠償責任を請求したが、原審は原告の請求を棄却し、これに対して原告は上告を提起した。

判決内容

大法院は、被告が雇用期間中に習得した技術上・経営上の情報などを使用し営業をしたとしても、その情報は既に同種業界全般にある程度知られていたものであって、仮に一部具体的な内容が知らされていない情報があったとしてもこれを入手するにそれほど多くの費用と努力を要しなかったものと見られるもので、原告が他の業者の進入を防いで取引を独占する権利があったわけでもなく、取引先との信頼関係は貿易業務を遂行する過程で自然に習得される側面が強いため、競業禁止約定により保護する価値のある利益に該当するとは見難いか、若しくはその保護価値が相対的に少ない場合に該当するという点、

被告が競業禁止約定の締結により特別な代価を受領したものとは見られないにもかかわらず、退職後2年という長期間競業が禁止されている点、

被告は18年程度原告会社で勤めたため、原告会社で貿易業務を通して習得した一般的な知識と経験を利用する業務に従事できなければ、転職することが容易でなく、原告会社の仕事をやめる場合、生計に相当な打撃を受け得る点、

被告が原告会社を退職し同じ業種の会社を設立して原告が取引していたバセット社に納品することができたのは、被告が中国の下請け企業から供給を受けた製品を納品することで価格競争力を有することができたところに全面的に起因したものと見られる点、

たとえ被告が会社を設立し原告と同種事業を営為するために原告会社をやめ、退職日が近づいてから予めその事業を準備する行為をしたとしても、その背信性が大きいとは見難い点、

などに照らし、競業禁止約定が被告の上記のような営業行為まで禁止するものと解釈されるとすると、勤労者である被告の職業選択の自由と勤労権などを過度に制限するか自由な競争を過度に制限する場合に該当し、民法第103条に定める善良な風俗、その他の社会秩序に反する行為として無効であると判示し、原告の上告を棄却した。

専門家からのアドバイス

競業禁止約定の有効性については、勤労者と競業禁止約定を締結したとしても、相対的に経済的弱者である勤労者の生存権を脅かす可能性があり、憲法上の権利である職業選択の自由を制限し自由な競争を阻害し得るという点などを考慮して約定の有効性を制限的に解釈するのが判例の一般的な傾向であり、本判決も一般的な傾向に倣ったものと言える。しかし、競業禁止期間を短縮するなど競業禁止約定の効力を制限することにより使用者である原告と勤労者である被告の利益の均衡を調節することができたにもかかわらず、競業禁止約定の効力を全面的に否定してしまったことは、使用者の権利保護に対しては考慮の余地まで一切排除してしまったことになり、残念な点である。今後、勤労者と競業禁止約定を締結しようとする使用者としては、競業禁止期間を合理的に限定し適切な代価をも支給して、保護する価値がある使用者の知識又は情報を予め特定しておく方法を考慮せざるを得ないであろう。

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