知財判例データベース 数値限定発明の進歩性判断基準を提示した事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 株式会社イーテック(原告、上告人)v. PATENT-TREUHAND-GESELLSCHAFT FUER ELEKTRISCHE GLUEHLAMPEN MBH(被告、被上告人)
- 事件番号
- 2008フ4998
- 言い渡し日
- 2010年08月19日
- 事件の経過
- 確定
概要
285
特許登録された発明が、その出願前に公知の発明が持つ構成要素の範囲を数値で限定して表現した場合であるとしても、その特許発明に進歩性を認めることができる他の構成要素が付加されていて、その特許発明での数値限定が補充的な事項にすぎない場合であるか、あるいは、数値限定を除いた両発明の構成が同一であるとしても、その数値限定が公知の発明とは相違する課題を達成するための技術手段としての意義を有し、その効果も異質な場合であるのなら、数値限定の臨界的意義がないことをもって、特許発明の進歩性を否定することはできない。
事実関係
被告は「高輝度の無電極低圧力光源及びこれを作動する方法」に関する本件特許発明の特許権者であるところ、原告は被告に対し、本件特許発明は先行技術に比較して進歩性がないなどの理由で登録無効審判を請求し、被告は本件特許発明の明細書及び図面に対する訂正を請求した。特許審判院は被告の訂正請求を認めて登録無効審判請求を棄却したため、原告はこれに対する審決取消訴訟を提起したが、特許法院も進歩性が認められるという理由で原告の請求を棄却した。原告は、これに対して大法院に上告した。
判決内容
特許登録された発明が、その出願前に公知の発明が持つ構成要素の範囲を数値で限定して表現した場合において、その特許発明の課題及び効果が公知の発明の延長線上にあり数値限定の有無のみに差がある場合には、その限定された数値の範囲内と範囲外において顕著な効果の差が生じなければ、その特許発明は、その技術分野で通常の知識を有する者が通常的で反復的な実験を通じて適切に選択できる程度の単なる数値限定に過ぎないため進歩性が否定されるが、その特許発明に進歩性を認めることができる他の構成要素が付加されていて、その特許発明の数値限定が補充的な事項に過ぎない場合か、あるいは、数値限定を除いた両発明の構成が同一であるとしてもその数値限定が公知の発明とは異なる課題を解決するための技術手段としての意義を有し、その効果も異質な場合であるのなら、数値限定の臨界的意義がないことをもって、特許発明の進歩性を否定することはできない。
大法院は上記のような法理に基づき、比較対象発明1の場合、本件特許発明と大部分の構成が同一であり、ただし、比較対象発明1はバッファーガス圧力1torr~5torr、放電電流0.25アンペア~1.0アンペアである反面、本件特許発明はバッファーガス圧力0.5torr未満、放電電流2アンペア以上である点で差があるだけであり、比較対象発明2の場合、ネオンガス圧力0.3torr~3.0torrという記載があり、ネオンガス圧力0.3torr未満の場合は放電開始が比較的難しく3.0torr以上の場合は放電開始は容易であるが光出力が低くなると記載されており、バッファーガス圧力を低くすることにより光出力を向上させようとする点において本件特許発明は比較対象発明2の延長線上にあると言えるため、本件特許発明の明細書に限定されたバッファーガス圧力の数値範囲内外で顕著な効果の差が生じると見られるだけの記載がない以上、この点は通常の技術者が通常的で反復的な実験を通じて適切に選択できる程度の単なる数値限定にすぎないと判断した。一方、放電電流については、本件特許発明での2アンペア以上の放電電流の範囲は閉ループ型無電極ランプのコア損失を減らすという課題を解決するために選択された技術手段であると言えるところ、放電電流の範囲に対して何らの開示がない比較対象発明2はもちろん、放電電流の範囲が0.25アンペア~1.0アンペアである比較対象発明1にも放電電流を高く設定してコア損失を減らそうとする点に関する記載や暗示がなく、さらに本件特許発明はその放電電流の範囲の数値限定によりコア損失の減少という比較対象発明とは明確に異なる効果を奏するため、たとえ本件特許発明の明細書上にその数値限定の臨界的意義が明確に示されていないとしても本件特許発明における放電電流の範囲の数値限定の技術的意義は否定されないとして、本件特許発明の進歩性は否定されないと判示した。
専門家からのアドバイス
数値限定発明とは、請求項に記載された発明の構成に欠くことのできない事項の一部が数量的に表現された発明を意味する。数値限定発明において、公知の発明の構成要件をなす要素の数値を限定することによりこれを数量的に表現した場合、それが通常の技術者が適切に選択して実施できる程度の単なる数値限定であって、そのように限定された数値範囲の内外で異質ないしは顕著な作用効果の差を生じないのであれば、その発明は進歩性を有しないことになる。一方、数値限定発明と関連して臨界的意義(ある数値を境界にして特性に急激な変化があること)が常に要求されるかどうかについては、学説上諸説が存在するが、明確な大法院判例はまだない。数値限定以外の構成ないし技術的特徴により進歩性を認めることができる場合であれば、数値限定に関する臨界的意義が不要であり、また、数値限定により比較対象発明とは異質な効果が認められる場合も、それ自体で進歩性を認めることができる根拠になるため、本件で大法院が、数値限定が補充的な事項にすぎない場合、若しくはその効果が異質な場合には、臨界的意義が不要であると明示したことは妥当な結論であると言える。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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