知財判例データベース 商標権侵害による損害賠償額を弁論全体の趣旨に基づき認定した事例
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- ソウル中央地方法院
- 当事者
- Salvatore Ferragamo Italia S.p.A.(原告)v.金剛株式会社(被告)
- 事件番号
- 2009ガ合78189
- 言い渡し日
- 2010年08月11日
- 事件の経過
- 未確認
概要
286
商標権侵害により原告に損害が発生したことは認められるが、その損害額を立証することが事案の性質上極めて困難な場合には、商標法第67条第5項により損害額を算定することができ、弁論全体の趣旨に基づいて原告の損害額を定めるのが相当である。
事実関係
原告は指定商品をハンドバッグ、革靴、ブーツなどとする本件登録商標の商標権者であり、被告は2004年頃からインターネットショッピングモールサイトと直営売り場、デパート売り場などで本件登録商標と類似の被告標章を靴の足の甲の部分に付した男性用靴製品を販売していた。原告は被告のこのような行為が原告の商標権を侵害すると主張し、被告に2004年9月頃、商標権侵害と関連して和解を勧める内容証明を発送し、さらに2009年1月頃、商標権侵害行為の中止を促す内容証明を発送したが、被告はこれに応じなかった。そこで、原告は商標権侵害を理由に被告標章の靴製品などへの使用差止め、被告標章を使用した靴製品などの廃棄、これらにかかる原告への損害賠償と、失墜した原告の業務上の信用回復の措置として判決文要旨の日刊紙掲載などを請求する訴えを提起した。
判決内容
法院は、本件登録商標と被告標章は細部的な差にもかかわらず、全体的に見たとき、互いに類似しており、被告標章は靴製品に商標として使われたものとして、需要者らに具体的な出処の誤認・混同をもたらすおそれがあると判断した。また、本件登録商標は世界的に広く知られた標章として国内の一般需要者らに原告を指し示す標章として既に認識されている点、相当数のその他の国内製靴企業が1999年頃から原告の本件登録商標に対する侵害行為をしてこれによる法律的紛争が多数存在したという点、被告は40年前から靴製品を製造・販売している国内最大の製靴企業であるため、原告商標権の存在及び原告商標権に関する紛争事実などに対してよく知っていたものと思える点、原告は既に被告に対しても商標権侵害に関して数回内容証明を発送したという点などを考慮するとき、被告に原告の商標権侵害に対する故意又は過失が存在すると判断した。
次に損害額と関連し、原告は商標法第67条第1項又は第2項により被告の販売数量に原告から製品を輸入して国内に販売するA販社の利益率をかけたり、被告の売上額に被告の利益率をかける等の方法で損害額に関する立証を試み、10億ウォンを損害賠償金として請求したが、法院は、A販社の利益率が原告の利益率と同一であるかそれより低いと認めるだけの合理的な理由がないという点、被告標章のうち、一部に対してのみ被告の製品販売数量と売上額に関する資料があるという点、被告も国内製靴企業として国内需要者に広く知られており、その品質が認められているという点などを根拠に、商標権侵害によって原告に損害が発生したことは認められるが、その損害を立証することが事案の性質上極めて困難な場合に該当するとみなして商標法第67条第5項により上記のような事情と弁論全体の趣旨に基づいて原告の損害額を2億ウォンと認定した。
専門家からのアドバイス
損害額の認定について定めた商標法第67条(特許の場合は第128条)を非常に平易な言い方で簡単に言うと、第1項は権利者利益の減少分を、第2項は侵害者の利益分を、第3項は通常のライセンス料を、第4項は通常のライセンス料を超える分があればその分も、第5項で1~4項によっても算定が難しいときは訴訟全体を通じて損害額を認定することができるという構造になっている。
これまで法院は、損害額の立証に関連して、損害賠償を求める側の原告に対し第1項から第4項までの規定に従い具体的な金額について積極的に主張・立証することを要求し、関連資料の確保が難しい場合には損害額の立証がないとして請求を排斥してしまう傾向があったが、最近では第5項により損害額を認定する事例が多数見られるようになり、確かに請求が排斥されてしまうよりは権利者にとっては喜ばしいことではある。
本件で法院は、第5項を適用した理由として、第1項や第2項について「原告の利益率」「被告の販売数量/売上高」に不備があること、さらに「被告の品質」もある程度知られているので原告商標を付着したことによらない売上貢献度もあったという点をあげているが、漠然とした判事の心証に依存した感がある。例えば裁判の進行過程で十分な準備期日を設けるなどして原告・被告双方に追加的な事実確認を命じることで第1~4項までの算定方法を十分に検討した後、それでも合理的な算定ができない場合に初めて第5項を適用するのがより望ましい姿であると思われる。
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