知財判例データベース コーヒー専門店で再生する音楽BGM用CDは「販売用音盤」に該当せずこれを再生した行為が著作権侵害に該当すると判示した事例

基本情報

区分
著作権
判断主体
ソウル高等法院
当事者
社団法人韓国音楽著作権協会(原告、控訴人)v. 株式会社スターバックスコリア(被告、被控訴人)
事件番号
2009ナ53224
言い渡し日
2010年09月09日
事件の経過
上告

概要

288

著作財産権の制限事由の一つとして聴衆から反対給付を受けず「販売用音盤」を再生して公衆に公演する場合には公演権侵害に該当しないと規定している著作権法第29条第2項は、著作財産権保護と著作物利用の活性化の調和を図るための条項であるため、上記の条項で「販売用音盤」とは市販を目的に制作された音盤だけを意味するものと解釈すべきである。

事実関係

原告「社団法人韓国音楽著作権協会」は本件音楽著作物に対する公演権等著作財産権の信託を受けた者であり、被告「株式会社スターバックスコリア」は本件音楽著作物に対する複製及び配布権の許諾を受け、スターバックス本社と音楽サービス契約を締結したプレイネットワーク社(以下「PN社」とする)からPN社が制作した本件音楽著作物が含まれたCDを購買し、本件音楽著作物をスターバックス店舗でバックグラウンドミュージック(以下「BGM」とする)として再生させて公演した。原告は被告に対し被告が店舗で上記BGM用CDを再生する行為は原告の著作財産権を侵害する行為であるため、この差止めを請求する訴えを提起し、第一審はPN社がスターバックス本社と締結した契約により被告を含む各国のスターバックス支社に販売するために上記BGM用CDを制作し、被告も代価を払って上記BGM用CDを購買したため、これは「販売用音盤」に該当し、被告が上記BGM用CDを再生しつつも顧客から別途の反対給付を受けてもいないため、著作権法第29条第2項により著作財産権が制限されるから著作権侵害に当らないと判断して原告の請求を棄却し、これに対して原告は控訴した。

判決内容

ソウル高等法院は、著作権法第29条第2項は著作財産権保護と著作物利用の活性化との調和を図るための条項であるため、上記の条項で「販売用音盤」とは一般人を対象に市中で小売販売される「市販」を目的に制作された音盤だけを意味するものと解釈すべきであると判示し、(1)PN社が特殊なBGM用CDと特殊なプレーヤーを提供することはスターバックス本社と締結した契約によりBGMサービスを提供する方法のうちの一つであり、特別な注文に応じて制作された非代替物で、一般人を対象に市中で小売販売するために制作されたものでなく専らスターバックス店舗にのみ供給するために制作されたものであるという点、(2)BGMサービス提供の一環として提供される上記BGM用CDは暗号化されていてPN社が提供する特殊なプレーヤーでのみ再生され、契約で定められた期間が満了すればそれ以上再生されず、被告にBGM用CDを廃棄又は返還する義務が賦課されているという点、(3)上記BGM用CDの提供はBGMサービス提供の一方法に過ぎず、仮りに伝送又はインターネットを通して各海外支社が音楽著作物をダウンロードすることで提供を受ける方法である場合には著作権法上、著作財産権制限事由に該当する余地がないという点などを考慮すれば、上記BGM用CDは「販売用音盤」に該当すると見難いと判断した。結局のところ、PN社が本件音楽著作物に対する複製及び配布権の許諾を受けているだけであって、韓国内における公演権の許諾を受けているわけではないため、被告が店舗で上記BGM用CDを再生して本件音楽著作物を公演する行為は原告の著作財産権を侵害する行為に該当し、このような行為が著作財産権制限事由に該当するものでもないという理由により、原審を破棄し原告の請求を認容した。

専門家からのアドバイス

著作権法は著作権者に排他的な権利を与える一方、著作物の利用を促進させて競争を活性化するための目的で一定の場合には著作財産権の行使を制限する第29条(営利を目的としない公演・放送)を設けている。従って、著作財産権保護と著作物利用の活性化の調和を図ることを踏まえ法の解釈がなされるべきであり、本件でのソウル高等法院の判断は、著作権者の利益保護に、より重点を置いた結果と言えよう。

著作権法第29条第1項を簡単に言うと、営利目的でなく反対給付を受けないのであれば公表された著作物を公演・放送することができるというもので、同条2項は「販売用音盤」と「販売用映像」については、反対給付を受けないのであれば再生してもよいとされ、営利目的であるかどうかも問われていない。

ここで何故「販売用音盤」と「販売用映像」だけは別項を設けて著作権をさらに制限しているのかというと、これらは一般市場に向けて小売販売(判決中で「市販」という語を使っている)する場合には、音盤等の一般購入者において「(反対給付を受けずに)再生して公衆に公演」する程度のことは、販売の条件として想定することが自然であり、著作権者はこれに対する対価を販売金額により得る機会をあらかじめ得ているからと一応推察できる。一方、本件の場合は、特別注文により制作され、当事者間で特別の権利義務関係(廃棄又は返還義務など)までも形成する契約が行われているという事情から、公演権について当事者間で何らの意思表示もない状況下で、当該権利の付与と対価の回収が当然に行われたと考えること、すなわち「市販用音盤」の売買契約と同様な取扱いをすることは困難であると、法院は考えたのではなかろうか。

しかし、本件BGM用CDが、まさに「BGM用」として特定の多数人(全世界でスターバックスコーヒーショップを営む支社)に対価を受けて譲渡するために制作されたという点を考えると、本件BGM用CDが一般大衆に向けて公演(再生)されることを前提としていることをPN社も認識していた(当事者間で暗黙の意思表示があった)はずであろうし、本件BGM用CDの販売時にPN社はこれに対する対価を得る機会を既に経ていたと解することもできるため、この点に対する上級審の判断に注目する必要がある。(なお、PN社は、本件音楽著作物に対する複製及び配布権の許諾を受けたにすぎないという事情があり、反対給付を受けない公演権の付与について意思表示が可能であったのか否かについては、別途議論の余地がある)

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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