知財判例データベース 特許出願後でも自己公知行為日から6月以内であれば自己公知例外規定の適用を受けようとするという趣旨記載の欠落を補正することができると判断した事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 韓電KDN株式会社(原告)v. 特許庁長(被告)
- 事件番号
- 2009ホ9518
- 言い渡し日
- 2010年07月16日
- 事件の経過
- 上告
概要
283
特許出願時、特許法第30条第2項に従う自己公知による公知例外規定の適用を受けようとする趣旨を出願書に記載はしなかったが、出願日の翌日「公知例外適用対象証明書類提出書」を特許庁に提出したことにより特許庁審査官がその趣旨を認識したのであれば、特許法第30条第1項第1号所定の自己公知による公知例外が適用されなければならない。
事実関係
「変電所内の部分放電測定が可能なIEC61850基盤のデジタル変電システム」に関する本件出願発明の発明者は出願発明に関する研究論文を2006年5月26日の学会で発表し、原告はその従業員である上記の発明者から特許を受ける権利を継承し2006年6月21日特許出願をしたが、その出願書には「公知例外適用対象出願」という趣旨を明示せず、その翌日である2006年6月22日に「本件出願発明が2006年5月26日刊行物発表により公開された」という内容と「特許法第30条第2項の規定により証明書類を提出する」という趣旨を記載して上記の論文を添付した「公知例外適用対象証明書類提出書」を特許庁に提出した。これに対し特許庁審査官は公知例外の適用を主張する者はその趣旨を記載した書面を特許出願と同時に提出しなければならないという特許法第30条第2項の違反を理由に、公知例外適用主張を認めず、これにより公知技術となり得る上記の論文に記載された発明によって進歩性が否定されるという理由で拒絶決定をした。原告はこれに対し拒絶決定に対する不服審判を請求したが、特許審判院も同じ理由で原告の審判請求を棄却したため、原告は審決取消訴訟を特許法院に提起した。
判決内容
特許法院は、(1)特許法第30条第2項の趣旨は特許庁審査官に当該出願が自己公知による例外規定の適用を受けようとする出願であるという事実を明らかに認識させることにより審査便宜を図ろうとすることであると見られる点、(2)自己公知行為日から6月以内に特許出願をした出願人に自己公知による公知例外の効力を与えるように定めた以上、出願人が6月以内には自己公知例外規定の適用を受けようとするという趣旨を補正できるよう許容しても第三者の権利に不当な影響を及ぼす結果は発生しないものであるという点、(3)補正を許諾しない場合、発明者は手続上の形式的な瑕疵が存在するという理由だけで補正の機会さえ与えられないまま当該出願発明の実体的な内容とは関係なく特許を受けることができなくなる深刻な不利益を被るようになるという点、(4)補正を許容しないことにより発生するこのような結果は新しい技術の早期公開によって社会全体的な研究活動の活性化及び技術蓄積の促進を図ろうとする特許法第30条規定の趣旨に反すると見られる点、(5)自己公知による公知例外規定の適用を受けようとするという点は出願時に必ず備わっていないとそれ以降の手続きを進めることができないようになる性質の事項でないという点、(6)特許法第30条第2項を「必ずその趣旨を特許出願時に出願書に記載しなければならず、出願後の補正でこれを記載することはできない」と解釈する場合、自己公知行為日から6月以内に特許出願できるように許容した特許法第30条第1項規定の趣旨が希薄となり得る点、(7)特許法第30条第2項は自らの意に反する公知による公知例外を主張する場合には適用されないため、これを厳格に解釈することは自らの意に反する公知の場合に比べて過度に公平を欠くとみることができる点、⑧特許法など関連規定で自己公知による公知例外規定の適用を受けようとする趣旨を出願後補正できないと明示的に禁止していない点などに照らしてみれば、出願書に自己公知例外規定の適用を受けようとするという趣旨を記載しなかった出願であるとしても特別な事情がない限り自己公知行為日から6月以内であれば自己公知例外規定の適用を受けようとするという趣旨記載の欠落を補正できるとみなければならず、これにより上記の論文に記載された発明は本件出願発明の進歩性如何を判断する公知技術になり得ないという理由で本件審決を取消して原告の請求を認容した。
専門家からのアドバイス
特許出願以前にいかなる事情があっても発明の内容が公開された場合には一切特許権を受けることができないとなると、発明者は研究成果の公表を手控え、論文発表や学術誌掲載による検証の機会が減少し、新技術の早期公開が停滞することにより社会全体の研究活動の活性化や技術蓄積の促進が阻まれ、ひいては産業の発達を目的とする特許法の趣旨にも符合しない結果となるから、特許法には、発明者自身による技術公開について一定の要件下で特許を受けられるように新規性喪失の例外として第30条が設けられている。
この特許法第30条は例外的、救済的な規定であるため、一定の要件(試験実施、刊行物記載、特定の博覧会出品など)に合致するかどうかその解釈と適用は非常に厳格に行われてきたが、2001年7月改正で博覧会の特定条件緩和とオンラインでの公表追加がなされ、2006年3月改正では公知の形態に関する制限全廃と共に、第2項が「~その旨を記載した書面を特許出願と同時に提出し~」から「~特許出願書にその旨を記載して出願し~」に変更され、徐々にその要件が緩和されてきた。
本件のように出願後の補正を許容した特許法院の判断は、このような変遷を加味し昨今のユーザーフレンドリーな手続き緩和方針に沿ったものと言えるが、現在本事件は大法院の最終的な判断が残っているため、これを確立したプラクティスとみてはならず、特許庁の以前からの手続きどおり、出願と同時に公知例外規定の適用を主張する旨を出願書に記載しておくべきである。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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