知財判例データベース 商標使用権者の登録商標不正使用行為に対して商標権者の監督義務を厳格に課した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
ラコステ(原告、上告人)v. クロコダイルインターナショナルプライベートリミッテッド(被告、被上告人)
事件番号
2009フ3329
言い渡し日
2010年04月15日
事件の経過
破棄差し戻し

概要

273

商標法第73条第1項第8号但書きにより商標登録取消事由に該当しないための「商標権者が登録商標の専用使用権者又は通常使用権者の不正使用行為に対し相当な注意を払った」と言うためには、専用使用権者又は通常使用権者を実質的にその支配の下に置いていると評価できる程度でなければならず、また、使用権者の使用行為が不正使用に該当して商標登録取消事由に該当する以上、使用権者が商標権者が別途に登録した商標に近い商標を使用していたとしてもこれが商標権者の使用監督義務を履行したかどうかを判断するために考慮する要素にはならない。

事実関係

原告はスカート、児童服、ワイシャツなどを指定商品とする本件対象商標の商標権者であり、被告はTシャツ、ハンカチなどを指定商品とする本件登録商標 の商標権者である。本件登録商標の通常使用権者らはTシャツに本件登録商標と類似の本件実使用商標 を付して使用している。原告は被告に本件登録商標の通常使用権者らによる本件実使用商標の使用行為は需要者に本件対象商標との間に商品の出処に関して混同を生じさせるものであるので、本件実使用商標の使用行為を中止するようにと要請したが、被告はこれに応じなかったため、商標法第73条第1項第8号により本件登録商標の登録が取り消されなければならないと主張し登録取消審判を請求した。

特許審判院は原告の審判請求を棄却したが、原告が特許法院に審決取消訴訟を提起したところ、特許法院は、本件実使用商標の使用行為が需要者に本件対象商標との間に商品の出処に関して混同を生じさせたという点は認めつつも、通常使用権者らの本件実使用商標の使用行為に対して商標権者である被告は相当な注意を払っていたとの理由で原告の請求を棄却した。これに対し原告は上告を提起し再度争ったものである。

判決内容

特許法院は、被告が本件登録商標のうちで文字部分が省略された図形商標を別途に登録しており、本件実使用商標の使用状態が当該図形商標に近い点、通常使用権者らが製品のラベルなどに本件登録商標と同じ標章を付していた点、被告が通常使用権者らにブランドマニュアルを交付し、その遵守如何を検査して是正を要請していた点などを根拠に、被告が本件登録商標の通常使用権者らの不正使用行為に対して相当な注意を払っていたと判断したが、大法院は、商標権者が本件登録商標の専用使用権者又は通常使用権者の不正使用行為に対して相当な注意を払ったと言うためには、専用使用権者又は通常使用権者に誤認・混同行為をしてはならないと注意や警告をした程度では足りず、使用実態を定期的に監督する等の方法で商標使用に関して専用使用権者又は通常使用権者を実質的にその支配下に置いていると評価できる程度でなければならないという法理に基づき、通常使用権者らがたとえ本件登録商標と同一の標章を使用してもそれが不正使用に該当するのであれば商標登録取消事由に該当するため、通常使用権者らが本件登録商標のうち文字部分が省略された、被告が別途に所有する図形商標に近い商標を使用していたという事実は、被告の使用監督義務の履行を判断するのに考慮すべき要素になるとは見られない。

通常使用権者らが本件対象商標と混同を招くように本件実使用商標を使用した以上、製品のラベルなどに本件登録商標と同一な標章を付したとしても本件対象商標との混同が生じるおそれがなくなったとみなせるものでもなく、通常使用権者らにブランドマニュアルを交付してその遵守を検査し是正を要請したという事情だけでは商標使用に関して彼らを実質的に支配下に置いて監督していたとは見難いと判示し、被告が相当な注意を払っていたと判断した特許法院の判決を破棄した。

専門家からのアドバイス

商標法第73条第1項第8号の趣旨は、商標権者に使用権を自由に設定できるようにする代わりに使用権者に対する監督義務を課し、これを守れなかった場合、その登録商標を取消し得るようにして、商標権者自らの不正使用行為ばかりでなく使用権者による登録商標の不正使用行為についても抑制機能を設けることで、消費者の利益保護はもちろん、他の商標を使用する他人の営業上の信用と権益をも保護しようとするところにある。

本判決はこのような立法趣旨により法が使用権者らの不正使用行為に対し商標権者の監督義務を定めているところ、特に、特許法院が、(1)クロコダイルが通常使用権者らにブランドマニュアルを交付しその遵守を検査していたので「相当な注意を払っていた」と判断し、(2)使用権者の本件実使用商標が被告の別途に登録した図形登録商標と類似していることから、被告が原告の使用中止要請に対して特別な措置を取らなかったとしても不正競争の意図があったとは見難い、と判断したのに対し、大法院は、(1)ブランドマニュアルを交付し遵守を検査する程度では「相当な注意を払った」とは言えず、原告からの使用中止要請を受けながらも通常使用権者に強制的な是正措置をとらなかったのは不正使用を事実上放置したものであって、実質的に支配下に置いて監督していたとは見難く、(2)使用権者の不正使用行為が認められる以上、本件実使用商標が被告の別途登録した図形商標に酷似した使われ方であったとしても、これは商標権者の使用監督義務の履行如何を判断するのに際して考慮する要素ではないと判示し、使用監督義務についてより厳格な基準を適用した点に注目する必要がある。

従って、使用権を許諾している商標権者としては今後、この大法院の姿勢を考慮し使用権設定契約当初から誤認・混同行為が発生しないよう契約条件を明らかにし、使用権者らを実質的に支配下に置いたうえ(ただし、経営的支配を意味するのではなく登録商標の使用状態に関してである)、使用行為に対する監督をより強化する必要があると思われる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195