知財判例データベース 手術場面及び患部の形と治療経過などの写真は著作物として保護される程度に撮影者の個性と創造性が認められない
基本情報
- 区分
- 著作権
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- オネストメディカル株式会社他2(原告、上告人兼被上告人)v. 株式会社クルツー他1(被告、上告人兼被上告人)
- 事件番号
- 2008ダ44542
- 言い渡し日
- 2010年12月23日
- 事件の経過
- 破棄差し戻し
概要
340
著作権法により保護される著作物に該当するためには、その要件として創作性が要求されるため、高周波手術機を利用した手術場面及び患部の形と治療経過などを忠実に表現して正確且つ明確な情報を伝えるという実用的目的のために撮影された写真は写真著作物として保護される程度に撮影者の個性と創造性が認められる著作物に該当するとは見難い。
事実関係
原告のオネストメディカル株式会社(以下「原告会社」とする)は高周波手術機を取扱う医療機器業者であり、その他の原告は高周波手術機を利用して「高周波手術機の使用方法と治療原理」に関する論文(以下「本件論文」とする)を発表した医者であり、被告は原告会社と高周波手術機に関する輸入・販売契約を締結し、これを輸入・販売している企業である。原告は、被告が原告会社で発行した製品説明書及びパンフレットと本件論文などに掲載されている高周波手術機を利用した手術場面及び患部などを撮影した写真(以下「本件写真」とする)とこれに対する説明(以下「本件説明」とする)、及び原告が秘密維持約定なしに一部の被告に提供した高周波手術機の製造方法が記載された資料を被告が使用した行為は各原告の著作権及び営業秘密を侵害するものであるという理由でこれに対する損害賠償を請求した。これに対して原審法院は本件写真と本件説明は著作権法により保護される著作物に該当しないと判断したが、被告の上記のような行為が営業秘密侵害行為に該当すると認め原告の請求を一部認容し、これに対して原告・被告双方が大法院に上告した。
判決内容
大法院は著作権法により保護される著作物に該当するためには、文学・学術又は芸術の範囲に属する創作物でなければならず、その要件として創作性が求められるにもかかわらず、本件写真は原告会社が生産した高周波手術機を利用して手術する場面、手術直後の患部の形と治療の経過及びこれに関する標本などを撮影したもので、全て撮影対象を中央部分に位置させたまま近距離から撮影されたものであり、手術場面などを忠実に表現して正確且つ明確な情報を伝えるという実用的目的のために撮影されたものであるため、写真著作物として保護される程度に撮影者の個性と創造性が認められる著作物に該当すると見ることは難しいと判断した。また、本件説明が著作物に該当するかどうかと関連し、著作権法が保護するのは文学・学術又は芸術に関する思想・感情を言葉・文字・音・色等によって具体的に外部に表現する創作的な表現形式そのものであり、そこに表現されている内容、即ち、アイディアや理論などの思想及び感情自体は原則的には著作権の保護対象とならない。特に学術の範囲に属する著作物の場合、その学術的な内容は万人に共通されるものであり、誰に対しても自由な利用が許容されるべきものであって、その著作権の保護は創作的な表現形式にあって学術的な内容にあるのではないという法理に基づけば、本件説明は高周波手術機を利用した高周波凝固法の治療原理と効果などを表すためのものであって、その学術的な内容は誰に対しても自由な利用が許容されなければならず、その表現形式において著作者の独自の個性が現れて法的に保護する価値のある創作的表現が存在していると見ることも難しいという理由で著作物に該当しないと判断し、これに関する原告の上告部分を棄却した。
一方、大法院は原審と異なり、原告会社が被告に提供した高周波手術機の製造方法は秘密管理性の要件を満たしておらず原告会社の営業秘密に該当しないという理由により、被告の営業秘密侵害の責任を認めた原審判決を破棄した。
専門家からのアドバイス
写真の場合、被写体の選定、構図の設定、光の方向と量の調節、カメラ角度の設定、シャッター速度、シャッターチャンスの捕捉、その他の撮影方法、現像及び印画などの過程で撮影者の個性と創造性が認められてこそ著作権法により保護される著作物に該当するということは判例の一貫した態度である。よって、手術場面などを忠実に表現して正確且つ明確な情報を伝えるという実用的目的のために撮影された本件写真が著作物に該当しないと判断した点は、上記の法理に照らして至極当然の結論であると言える。ただ、本件では特定手術機器及び手術技法の説明のために撮影された写真及びこれに関する医者の論文引用文などについても著作物に該当しないという結論が下されたが、類似の事案で下級審ではあるが「不法行為が成立するためには、必ずしも著作権などの法律で定められた厳密な意味での権利が侵害された場合にだけに限るのではなく、法的に保護する価値のある利益が違法に侵害されたことだけでも充分なのであり、従って、不正に自らの利益を図る目的でこれを利用したり又は作成者に損害を被らせる目的により利用する等の特別な事情がある場合には、ウェブサイトなどを通してインターネットに公開された情報を利用する行為であってもその行為が法的に保護する価値のある相手側の利益を侵害する違法な行為に該当するのであれば不法行為が成立する可能性もある。」(ソウル中央地方法院2007年6月21日言渡2007ガ合16095判決[1])と判示している。
すなわち、本件でも原告が不法行為に基づいた損害賠償まで主張していたとすれば、ある程度の賠償額が認められた可能性もあったと考えられ、この種の著作物の無断複製などの事件においては、不法行為に基づく損害賠償請求の可能性についても事前に検討すべきである。
注記
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原告(形成外科の医師)のウェブサイトに掲載されている毛髪移植手術の治療前後の写真とオンラインを通した患者に対する相談内容を無断で自身が治療した患者の臨床事例のように放送でその写真を提示し、また、自身が自ら相談に答えたかのように自身のウェブサイトのオンライン相談コーナーにそのまま移して掲載する方法で利用した被告(医師)の行為を不法行為と認め、被告に慰謝料として2千万ウォンの賠償を認めた事例
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