知財判例データベース 商標権侵害が認められても商標権者の営業上損害があったとは見難いと判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
株式会社イアソ(原告、被上告人兼上告人)v. 株式会社アイユコス他3人(被告、上告人兼被上告人)
事件番号
2007ダ22514
言い渡し日
2009年10月29日
事件の経過
破棄

概要

260

商標法第67条第2項、第5項は同条第1項[1]と同様に損害賠償請求において損害に関する被害者の主張・立証責任を軽減する趣旨の規定であり、損害の発生がないことが明らかな場合まで侵害者に損害賠償義務を認める趣旨ではないため、上記の規定によって営業上損害の賠償を求める商標権者としては自ら業として登録商標を使用していることを主張・立証する必要がある。ここで登録商標を使用している場合とは、登録商標を指定商品それ自体又は取引き社会の通念上これと同一と見られる商品に現実に使用した場合をいう。従って、商標権者が登録商標を指定商品と類似の商品に使用しただけで、指定商品自体又は取引き社会の通念上これと同一と見られる商品に現実に使用し製品を生産・販売する等の営業活動をしたと認めることができない場合には、商標権の侵害により商標権者に営業上の損害があったとは見難い。

事実関係

石鹸と洗剤などを指定商品とする本件登録商標の商標権者である原告は本件登録商標を使用した化粧品を製造、販売していたが、被告が化粧品に本件登録商標と類似の商標(以下「被告実施標章」)を使用した化粧品を販売したため、商標権侵害差止、損害賠償などを求める訴訟を提起した。原審法院は原告の請求を一部認容し被告の商標権侵害を認めた後、それによる損害賠償を被告に命じた。これに対して被告は、本件登録商標と被告実施標章は類似せず、被告が化粧品に被告実施標章を使用したことでは原告に損害が発生したと見られないという理由で上告を提起した。

判決内容

大法院は、先ず、本件登録商標と被告実施標章が類似していると判断し、被告の非類似主張を排斥した。しかし、大法院は、損害額推定に関する商標法第67条第2項、第5項は損害の発生がないことが明らかな場合まで侵害者に損害賠償義務を認める趣旨ではなく、上記の規定により営業上の損害の賠償を求める商標権者としては自ら業として登録商標を使用していることを主張・立証する必要があり、ここで登録商標を使用している場合とは登録商標を指定商品それ自体又は取引き社会の通念上、これと同一に見られる商品に現実に使用したことを言い、指定商品と類似の商品に使用しただけで、指定商品自体又は取引き社会の通念上これと同一に見られる商品に現実に使用し製品を生産・販売する等の営業活動をしたと認められない場合、商標権の侵害で商標権者に営業上の損害があったとは見難いと判示した後、原告が本件登録商標を使用した化粧品は取引き社会の通念上その指定商品である石鹸、洗剤とは同一でないため、被告が本件登録商標と類似の被告実施標章を化粧品に使用したとしてもこれによる原告の営業上損害があったと見難いと判断し、これと異なる判断をした原審を破棄した。

専門家からのアドバイス

商標法上、損害額の推定に関する第67条は商標権者の損害額立証の便宜のための規定として、損害発生事実まで推定する規定ではないものと理解されている。ただし、実務的には侵害事実が認められれば、損害の発生についても容易に認めており、具体的な損害額の算定と関連し推定規定をどのように適用するかについてのみ争う場合が多かったのが実情であったが、最近法院は損害額の推定規定を根拠とした損害賠償請求訴訟で損害発生事実を厳格に解釈する見解を見せている。それにより権利者が損害発生事実を立証できない場合には損害賠償を許容していない。本件でも法院は商標権者である原告が登録商標の指定商品(洗剤、石鹸)と取引き社会の通念上、同一でない商品(化粧品)に登録商標を使用してきたことを指摘し、指定商品と同一でない商品の場合は、商標権侵害による損害発生はないとした。このような大法院の判示は今後類似の商標侵害事例で侵害者側により有利に引用されるものと見られるところ、権利者保護の立場からは、今後これを補完できる理論の組立てと実務的な保護方法を考えていく必要がある。

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