知財判例データベース 請求項全体の記載に照らして明白な誤記に該当するとして特許法第42条第4項第2号に違反しないと判断した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
CONTI FASTENERS AG(原告)v. 特許庁長(被告)
事件番号
2008ホ6635
言い渡し日
2009年04月09日
事件の経過
確定

概要

241

特許発明の請求項に「発明が明確で簡潔に記載されていること」を要求する特許法第42条第4項第2号の趣旨は、請求項には明確な記載だけが許容されるものであって発明の構成を不明瞭に表現する用語は原則的に許容されないというものであるが、特許出願された発明の内容がその技術分野における通常の知識を有する者により容易に理解され再現可能であれば部分的に不明確な部分があるとしても適法な請求の範囲の記載であると見なければならず、不明瞭な表現が請求項全体の記載から見て明白な誤記に該当する場合にはこれを特許法第42条第4項第2号の規定に違反するとは言えない。

事実関係

特許庁長は、原告の出願発明のうち「薄い素材を結合するねじ山を持ったねじを製造する方法」に関する請求項第8項の従属項である請求項第10項が、補正をしたにもかかわらず発明の対象を「~ねじを製造する段階」と記載されており発明のカテゴリーが明確でないため、特許法第42条第4項第2号の規定に違反するとして補正却下の決定をし、特許審判院も同一の趣旨の審決を下した。これに対して原告は、請求項第10項の「~ねじを製造する段階」が「~ねじを製造する方法」の誤記であることはその技術分野における通常の知識を有する者には明確に分かり得ることであるため、発明のカテゴリーの記載が不明瞭であったとは言えないとして審決取消訴訟を提起した。

判決内容

法院は特許出願された発明の内容がその技術分野における通常の知識を有する者により容易に理解され再現できるのであれば部分的に不明瞭な部分があったとしても適法な請求の範囲の記載であると見なければならず、不明瞭な表現が請求項全体の記載から見て明白な誤記に該当する場合には、これを特許法第42条第4項第2号の規定に違反するものとは言えないという法理を説示した後、本件第10項発明は「ねじを製造する方法の発明」である本件第8項発明の従属項であるため、本件第10項の発明も「ねじを製造する方法の発明」であることは自明な事項であり、本件第10項発明の最後に記載された「ねじを製造する段階」は「ねじを製造する方法」の誤記であることが明白であり、これを「ねじを製造する物」と解釈する余地は全くないと判断した。これに従い、法院は審決を取消すことにより原告の請求を認容した。

専門家からのアドバイス

特許請求の範囲には発明が明確で簡潔に記載されなければならないという特許法第42条第4項第2号は、請求項の記載が不明確であったり、その記載内容が簡潔でない発明の場合、特許要件の判断が不可能であるだけでなく特許権が与えられても発明の保護範囲が不明確で特許発明の保護範囲を定められないため、規定されたものである。このような明確性の要件と関連し、法院は従来から「当該技術分野における通常の知識を有する者によって容易に理解され再現可能であれば部分的に不明確な部分があっても適法な特許請求の範囲の記載である」と判断してきており、誤記であることが明白で明確性の要件に反しないという趣旨の事例も以前から存在していた。本件は明確性の要件に関するこのような従来の判例の態度に従ったもので、請求項の不明確な記載を明白な誤記と認めることにより出願人の権利を保護したわけである。2009年7月1日施行予定の改正特許法で新設される第66条の2により軽微な誤記に対する審査官の職権訂正が可能となるなど、瑣末な瑕疵により有意義な特許が埋もれてしまうことを防止しようというのが最近のトレンドではあるが、判例の中には明白な誤記であるという出願人の主張を排斥し拒絶決定が妥当であると判断した事例も多数存在しれており、「明白な誤記であれば特許請求の範囲を不明確にしない」と短絡的に考えるのはやはりリスクが大きい。本件は明確性の要件に反しない明白な誤記に関する一例を提示し救済の可能性があるという程度に記憶しておくべきで、出願人としては最初の出願時から特許請求の範囲の記載を最大限明確に作成することが何よりも重要であると言える。

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