知財判例データベース 特定物質の医薬用途が薬理メカニズムのみで記載された場合、請求項の明確性の要件を満たすとみることができるかという事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
MCW Research Foundation, Inc.(原告)v. 特許庁長(被告)
事件番号
2006フ3564
言い渡し日
2009年01月30日
事件の経過
廃棄差し戻し

概要

235

医薬の用途発明では特定物質が持っている医薬の用途が発明の構成要件に該当するため、発明の特許請求の範囲には特定物質の医薬用途を対象疾病又は薬効により明確に記載することが原則であるが、特定物質の医薬用途が薬理メカニズムだけで記載されているとしても発明の詳細な説明など明細書の他の記載や技術常識により医薬としての具体的な用途を明確に把握できる場合には特許法第42条第4項第2号 に決められた請求項の明確性の要件を満たすものと見られる。

事実関係

原告は「窒素酸化物の生体内濃度を減少させる方法及びそれに有用な組成物」を発明の名称とする発明(以下「本件出願発明」)を出願したが、審査官から特許請求の範囲が明確かつ簡潔に記載されていないなどの理由で拒絶決定を受け、このため特許請求の範囲を補正し不服審判を請求したにもかかわらず、特許審判院が同じ理由で原告の請求を棄却したため、特許法院に審決取消訴訟を提起した。一方、本件出願発明は「特定ジチオカルバマート-金属錯物を含有した窒素酸化物スカベンジャーを含む、敗血症ショック、局所貧血などの疾患と関連した窒素酸化物過生成治療用組成物(以下「本件組成物」)」に関するものであるところ、原告は本件組成物は発明の詳細な説明に記載された通り窒素酸化物の過生成が媒介となって発病するものと知られている低血圧と多重器官不全症を治療するものであるため、特許請求の範囲には医薬用途が明確に記載されていると主張した。

判決内容

原審は本件出願発明の明細書、原告が提出した証拠資料を検討した後、本件出願発明は治療対象になる疾病が何であるかが不明であって、窒素酸化物の過生成が媒介となり低血圧症や多重器官不全症が発病されるかどうか及び窒素酸化物の過生成を抑制又は除去することによって上記の疾病を治療できるかどうかなどが明確でないため、その薬効を対象疾病又は薬効により明確に記載したとは見られないと判断した。

しかし、大法院は、本件出願発明の詳細な説明に窒素酸化物の過生成が敗血症ショックなどのように広範囲な疾病状態ないし徴候と関連するという記載がある点、窒素酸化物の過生成により低血圧症、多重器官不全症などが現れるという記載がある点、マウスを対象とした実施例で本件組成物を投与しマウスの生体内の窒素酸化物の濃度を減少させることによって低血圧を正常に回復させる効果が示されている点等に照らし、本件出願発明の特許請求の範囲に医薬用途が窒素酸化物の過生成を治療するという薬理メカニズムで表現されているものの、発明の詳細な説明を参酌すれば具体的な医薬用途を明確に把握できるという理由により、これと異なる判断をした原審を破棄し、事件を原審に差し戻した。

専門家からのアドバイス

医薬の用途発明の場合、医薬としての特定の用途自体に特許性があるため、特許請求の範囲にそのような用途が対象疾病又は薬効により記載されなければならないのが原則である。しかし、医薬発明の特性上、発明当時、対象疾病の具体的な名称などが特定されない場合もあり、医薬の用途を具体的な疾病又は薬効で特定することはそれほど容易なことではない。本件でも原告は本件組成物の医薬用途を具体的な疾病又は薬効の代わりに薬理メカニズムによる機能的表現で記載したところ、これに対し原審は特許請求の範囲が不明であると判断したのであるが、大法院は本件組成物の用途が薬理メカニズムで表現されてはいるが、発明の詳細な説明に照らせばその具体的な医薬用途が明確に分かると判断した。このような大法院の態度は医薬用途発明の特殊性を勘案し権利者を保護しようとするものと評価でき、本件は今後、医薬用途が薬理メカニズムだけで表現されているために特許請求の範囲の明確性が問題となっている類似の事案において、権利者にとっては非常に有用な先例となろう。

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