知財判例データベース 拒絶決定不服審判で補正を看過し補正前発明の内容に従って審理・判断したのは違法であると判断した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
エボニックシュトックハウゼンゲエムバッハ(原告)v. 特許庁長(被告)
事件番号
2008ホ13121
言い渡し日
2009年09月04日
事件の経過
確定

概要

251

拒絶決定不服審判請求事件で、補正の適法性については何ら審理・判断することなくこれを無視又は看過し、上記の補正が行われる前の発明の内容により審理・判断した審決は違法で取り消されるべきであり、これは拒絶決定不服審判請求を棄却する審決の取消訴訟段階で特許庁が拒絶決定の理由と異なる新しい拒絶理由に該当しない事由により審決の結論を正当なものとする事由を主張する場合であるとしても、審決取消訴訟における特許法院が制限なしに審理・判断できない特別な事情がある場合に該当する。

事実関係

「粉末型架橋吸水性重合体、その製造方法及び用途」に関する発明を出願した原告は審査請求と同時に明細書などを補正(以下「1次補正」)し、その後、審査官の意見提出通知を受けて再度明細書などについて補正書を提出した(以下「2次補正」)。しかし、審査官が進歩性欠如を理由として再度意見提出通知をしたため、原告はさらに明細書などについて補正書を提出したが(以下「3次補正」)、審査官は3次補正書の特許発明は依然として進歩性がないとして拒絶決定を通知した。これに対して原告が拒絶決定不服審判を提起したところ、特許審判院は2次補正書に記載された特許発明は進歩性がないという理由で審判請求を棄却した。これに対し原告は審決取消訴訟を提起し、3次補正書を看過した特許審判院審決の問題点を指摘したところ、特許庁長は3次補正により補正された部分は比較対象発明に開示されている構成であり、3次補正書に従っても進歩性が否定されるのは同じ結果であるため、訴訟経済上、原告の請求は棄却されるべきであると主張した。

判決内容

特許法院は、原告の3次補正は審査過程における補正であって、特許庁審査官は上記の補正を適法な補正と判断し、その発明が当初より補正された内容と同じ状態で出願されたものと見て審査した後、拒絶決定をしたと言えるため、本件出願発明に対する拒絶決定不服審判の審理対象は3次補正書に記載された内容の発明になると説示し、そして、特許審判院が3次補正書に記載された内容の発明を審判対象として審理、判断せずこれを無視又は看過したまま上記の補正が行われる前の発明の内容に従って本件出願発明を審理、判断したことは違法であると説示した。

一方、特許庁長は、原告の3次補正により補正された部分は比較対象発明に開示されている構成であるため、上記の補正により本件出願発明の内容を確定しても比較対象発明によりその進歩性が否定されるものであり、特許庁長は、審決取消訴訟の段階では拒絶決定理由と異なる新しい拒絶理由でない限り、審決の結論を正当にする事由を主張・立証できるため、結果的には本件審決の結論が妥当であり、審判対象を誤って指定した手続上の瑕疵を理由にして本件審決を取消すことは訴訟経済上不当であると主張した。

しかし、特許法院は被告の主張事由は本件審決の違法を治癒する法的根拠にならないだけでなく、明細書補正の制度的意義を逸脱する結果を招き得るもので、これは特許庁長が拒絶決定の理由と異なる新しい拒絶理由に該当しない事由により審決の結論を正当なものとする事由を主張する場合であるとしても、特許法院が制限なしに審理・判断することができない特別な場合に該当するとして審決を取り消した。

専門家からのアドバイス

出願人の利益の保護をしながらも公衆の利益を考慮し、その範囲と時期などに一定の制限を設けている補正制度は、出願人において拒絶理由を克服し特許を受けることができる権利を保護するための重要な手段の一つである。本件では特許審判院が最終的に補正された発明があることを看過しその直前に補正された発明を審理・判断して進歩性を否定することにより重大な手続き的瑕疵が発生したわけである。これに対して特許庁長は、審決取消訴訟段階では拒絶決定理由と異なる新しい拒絶理由でない限り、審決の結論を正当化できる事由を主張・立証できるため3次補正された発明を再度審理しても進歩性が否定されるという結論には変わらないから審決は適法であると主張したのであるが、これは特許法院により全て排斥された。このような特許法院の判断は補正制度を規定した趣旨や出願人の正当な手続き的利益などを全て考慮した判決として極めて正論であろう。ただ、この後、再び審判院で差し戻されても拒絶決定が出されるのは必至であり、さらに再び特許法院で審決取消訴訟が行われることを考えると訴訟経済上実益云々という特許庁側の主張も多少肯ける部分もあると思われる。

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