知財判例データベース 進歩性の判断において、当業者の技術水準などを証拠などの記録に示された資料に基づき把握しなければならないと判示した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
株式会社クボタ(原告、被上告人)v. 特許庁長(被告、上告人)
事件番号
2007フ3660
言い渡し日
2009年11月12日
事件の経過
確定

概要

261

先行技術により容易に発明できるものであるかによって、発明の進歩性有無を判断することにおいては、少なくとも先行技術の範囲と内容、進歩性判断の対象となった発明と先行技術の差及び当業者の技術水準に対し証拠などの記録に示された資料に基づいて把握した後、これを基礎として当業者が特許出願当時の技術水準に照らし進歩性判断の対象となった発明が先行技術と差があるにもかかわらず、そのような差を克服して先行技術からその発明を容易に発明できるかを見なければならないものであり、この場合、進歩性判断の対象となった発明の明細書に開示されている技術を知っていることを前提として事後的後知恵により当業者がその発明を容易に発明できるかを判断してはならない。

事実関係

発明の名称を「乗用型水田作業機」とする本件出願発明の出願人である原告は、審査官が比較対象発明1ないし3を根拠に拒絶決定を下し、特許審判院が拒絶決定不服審判を棄却するや、これを不服とし特許法院に審決取消訴訟を提起した。特許法院は本件出願発明の進歩性を肯定し原告の請求を認容したところ、これに対して被告である特許庁長は本件出願発明はその出願当時の技術水準に照らし、当業者が比較対象発明を通じて容易に発明できると主張して大法院に上告を提起した。

判決内容

大法院は、比較対象発明2に本件出願発明と同一の方式である株間変速機具に関する構成が現れているが、比較対象発明1ないし3のどこにも本件出願発明の植付系動力伝達経路に関する構成及び第1軸、第2軸兼植付系変速入力軸、植付系変速出力軸、差動軸からなる4つの軸に関する構成と同一な構成が示されていないため、比較対象発明1ないし3を結合し本件出願発明に至るためには比較対象発明1ないし3の対応構成の位置と配列関係を大幅に変更しなければならず、軸の数も変わらなければならないと認めた。これを前提に大法院は、通常の知識を有する技術者であればその出願当時の技術水準に照らして必然的に本件出願発明の構成要素4(注:ボールキー方式のギア変速機構に関する構成である)と比較対象発明1ないし3の差を克服し構成要素4を考え出すに至るものであるとの事情を認める何らの資料がない本件において、本件出願明細書に開示されている発明の内容を既に知っていることを前提として事後的に後知恵により比較対象発明1ないし3の対応構成を変更し組合せることにより上記の構成要素4に至るという判断をしない限り当業者が比較対象発明1ないし3の対応構成要素から上記構成要素4を容易に導出することができないと言えると判示し、被告の上告を棄却した。

専門家からのアドバイス

進歩性が問題になる事件で通常の知識を有する技術者(当業者)が誰であるか、出願日当時の技術水準がどの程度であったかを決めることは、進歩性判断における前提条件であり、最重要事項であると言える。にも拘わらず、大部分の事例ではこの部分に関する当事者の具体的な主張・立証がなかったり、法院の方もこの部分に関する掘り下げた判断を説示していないのが実情である。

本件では、大法院は進歩性判断の基準になる出願日当時、当業者の技術水準などを証拠などの記録に示された資料により把握しなければならないと明示しており、これは進歩性判断がややもすると客観的・合理的根拠のない「後知恵」に陥いりやすいことを防ぐためのものとして大いに妥当な判決であろう。このような大法院の判断は今後当事者間の進歩性が問題となる事案(特に、当業者の技術水準が強く問題となる事案)では重要な役割を果たすものと期待できよう。

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