知財判例データベース 不正競争防止法によって損害額を推定する場合、侵害者利益や通常実施権料相当額との差が大きいとして争えない

基本情報

区分
不正競争
判断主体
大法院
当事者
ミシャ・ヘルチャノ(原告)v.○○(被告)
事件番号
2007ダ12975
言い渡し日
2009年08月20日
事件の経過
確定

概要

254

旧不正競争防止及び営業秘密の保護に関する法律(2007年12月21日法律第8767号で改正される前のもの、以下「不正競争防止法」)第14条の2 第1項は、営業上の利益を侵害された者が不正競争行為がなかったとすれば販売することのできた物の数量を営業上の利益を侵害した者が不正競争行為により譲渡した物の譲渡数量によって推定する規定であり、被侵害者が同項によって損害額を請求し、それによって損害額を算定する場合に、侵害者としては同項のただし書による損害額の減額を主張することができるが、同項によって算定された損害額が第2項や第3項によって算定された損害額より多すぎるという事情を挙げて、第2項や第3項によって算定された損害額に減額することを主張して争うことは許容されない。

事実関係

「RUMMIKUB」という商標名のボードゲームを輸入して販売する原告は、被告が「RUMMY」という標章で同じボードゲームを販売したところ、被告の販売行為は国内に広く知られている原告の商品標識「RUMMIKUB」が使用された商品と混同を引き起こす正競争行為に該当するとし、その不正競争行為を中止して原告が被った損害賠償を請求する訴訟を提起した。これに対して高等法院は、原告の商標は周知のもので被告の行為が不正競争行為に該当するという理由で被告に原告の損害を賠償することを命じたところ、被告はこれを不服として大法院に上告を提起した。

判決内容

原審は、侵害者が譲渡した数量に単位数量当りの利益額を乗じた金額を被侵害者の損害額として推定する不正競争防止法第14条の2第1項によって、被告が賠償しなければならない損害額を算定したが、これに対して被告は不正競争行為による損害額の推定に関する別の規定である同条第2項または第3項によって算定される損害額より第1項により算定された損害額が多すぎるので、被告が賠償しなければならない損害額は第2項または第3項によって算定された損害額に減額されるべきであると主張した。 しかし大法院は、不正競争防止法第14条の2第1項は、被侵害者に本文の規定による譲渡数量等を立証して損害額を請求できるようにする一方、侵害者には同項のただし書の規定によって、被侵害者が不正競争行為以外の事由により販売することができなかった事情がある場合、そのような事情によって販売できなかった数量による金額を差し引かなければならないという抗弁を提出できるようにしたものであるので、被告が、第1項により算定された損害額が第2項または第3項によって算定された損害額より多すぎるという事情を挙げて、第2項または第3項によって減額することを主張して争うことは許容されないと判断し、結局、被告の上告を棄却した。

専門家からのアドバイス

不正競争行為が認められる場合でも、被侵害者が被った具体的な損害額を立証・算定することは実務上容易ではない。このような損害額算定の困難を解決し、被侵害者を救済するために、不正競争防止法は損害額の推定に関する第14条の2を規定しており、特に、第1項、第2項、第3項のような様々な規定を設けて、被侵害者にその中から立証がより容易な規定を選択できるように配慮している。従って、被侵害者にとって立証が容易で、より多くの損害額が導き出される規定を損害額算定の基礎とする場合、侵害者としてはより少ない損害額が算定される推定規定が適用されるべきであると主張することもできようが、これに対して大法院は、第1項によって算定された損害額が第2項または第3項による損害額より多すぎるため減額されるべきであるという主張は許容されないと明確な結論を提示している。訴訟法上の損害額がいくらなのかは侵害を主張する者が主張・立証しなければならない事項であり、上記のような損害額の推定が法律上の推定として規定されている点を勘案すれば、大法院の判示事項は法理的に至極妥当である。もしも侵害者が損害額の減額を目指して控訴するのであれば、損害額算定方法そのものに反論するか、第1項のただし書きに基づく抗弁を行うべきであったと言えよう。

一方、上記のような損害額の推定規定は特許法、商標法等にも同一・類似に規定されているので、本件での大法院の判断は特許権、商標権などの侵害による損害賠償訴訟でも援用できるものとみられる。

旧不正競争防止法第14条の2規定は、次のとおりである。

第14条の2(損害額の推定等)

  1. 不正競争行為又は営業秘密侵害行為によって営業上の利益を侵害された者が第5条又は第11条の規定による損害賠償を請求する場合、営業上の利益を侵害した者が不正競争行為又は営業秘密侵害行為をした物を譲渡したときは、その物の譲渡数量に、営業上の利益を侵害された者が当該不正競争行為又は営業秘密侵害行為がなかったとすれば販売することができた物の単位数量当たりの利益額をかけた金額を営業上の利益を侵害された者の損害額とすることができる。この場合において、損害額は、営業上の利益を侵害された者が生産することができた物の数量から実際販売した物の数量を差し引いた数量に、単位数量当たりの利益額をかけた金額を限度とする。ただし、営業上の利益を侵害された者が不正競争行為又は営業秘密侵害行為以外の事由で販売することができなかった事情があるときは、当該不正競争行為又は営業秘密侵害行為以外の事由で販売することができなかった数量に応じた金額を差し引かなければならない。[新設2001年2月3日]
  2. 不正競争行為又は営業秘密侵害行為によって営業上の利益を侵害された者が第5条又は第11条の規定による損害賠償を請求する場合、営業上の利益を侵害した者がその侵害行為によって利益を受けたときは、その利益の額を営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する。
  3. 不正競争行為又は営業秘密侵害行為によって営業上の利益を侵害された者は、第5条又は第11条の規定による損害賠償を請求する場合、不正競争行為の対象となった商品などに用いられた商標等の標識の使用又は営業秘密侵害行為の対象となった営業秘密の使用に対して通常受けることができる金額に相当する額を自己が受けた損害の額として損害賠償を請求することができる。

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