知財判例データベース 特許発明の保護範囲確定方法に関して説示した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
Memminger-Iro Gmbh(原告、被上告人)v.○○(被告、上告人)
事件番号
2007ダ45876
言い渡し日
2009年10月15日
事件の経過
確定

概要

257

特許発明の保護範囲は特許請求の範囲に記載された事項によって定めなければならず、そこに記載された文言の意味内容を解釈することにおいては文言の一般的な意味内容を基礎としながらも発明の詳細な説明の記載及び図面などを参酌して客観的・合理的に行わなければならず、特許請求の範囲に記載された文言から技術的構成の具体的内容がわからない場合には、明細書の他の記載及び図面を補充してその文言が表現しようとする技術的構成を確定して特許発明の保護範囲を定めなければならない。

事実関係

「紡績機用糸貯蔵及び供給装置」に関する特許発明(以下「本件特許発明」)の特許権者である原告は、被告が本件特許発明と同一の技術を実施して被告製品を製造・販売したところ、被告を相手取って侵害差止及び損害賠償請求をした。第一審、第二審法院が被告の侵害を認めてそれによる損害の賠償を命じると、被告は本件特許発明が被告製品とは同一ではないと主張し、大法院に上告を提起した。

判決内容

大法院は、特許発明の保護範囲は特許請求の範囲に記載された事項によって定めるべきであり、そこに記載された文言の意味内容を解釈することにおいては文言の一般的な意味内容を基礎としながらも発明の詳細な説明の記載及び図面などを参酌し、客観的・合理的に解釈しなければならず、特許請求の範囲に記載された文言から技術的構成の具体的内容がわからない場合には明細書の他の記載及び図面を補充しその文言が表現しようとする技術的構成を確定して特許発明の保護範囲を定めるべきであると説示した後、本件特許発明の特許請求の範囲に記載された「糸の引出し側にある円周面(24)が糸の支持領域(19)から糸がほどけて糸の除去部材(11)に移動するとき、糸(8)によって軸の方向から連続的に引っかかるようになること」という内容だけでは技術的構成の具体的な内容が分からないため、その内容が表現している技術的構成を確定するために発明の詳細な説明を参酌してみれば、(中略)そして、図面によれば、図1から4にリング(27)が図示されているものの図1、2には糸支持領域(19)からほどけた糸(8)がリング(27)を通過しないものと図示されており、リング(27)は本件第1項発明の従属項である第17項発明に付加されており、このような事情を考慮すればリング(27)が必ずしも本件第1項発明の必須構成には該当すると言えないと説示した。

そして、本件第1項発明と原審判示の実施製品は、ケージ(cage)タイプの紡績機(丸編機)用糸貯蔵及び供給装置の一般的な構成である「貯蔵ドラム、支持台、糸引出リム、糸供給部材、駆動機構(ベルト・プーリ)」と内向きに傾斜した円柱表面を有する回転性対象蓋の構成を備えており、支持台を円周面に妨げない方式で位置させることで糸が貯蔵ドラムの円周表面に連続的に引っかかる構成となっている点で同一であるため、被告製品は本件第1項発明の特許権を侵害したと判示し、被告らが上告理由で主張したような特許発明の保護範囲判断に関する法理誤解などの違法はないとして被告の上告を棄却した。

専門家からのアドバイス

特許請求の範囲の解釈と関連し、特許請求の範囲に記載された事項だけで保護範囲を確定しなければならないのか、それともどのような場合にどの程度まで発明の詳細な説明、図面などを参酌することができるかに関しては実際には多様な判例と様々な解釈論が存在している。大法院判例の場合だけを見ても既に前々から該当争点に関する多様な先例が存在していたが、これに関する最近の傾向は原則的に発明の詳細な説明、図面などを参酌するものの、ただし、そのような参酌を通した制限、または拡大解釈は許容されないものと要約できる。本件で大法院が明らかにした法理もこれと同一の脈絡を保ったもので、特段の目新しさはないが、おそらく被告側はリング(27)の有無を構成上の違いとして主張したのに対し、従属項に含まれた構成であるだけに第1項発明の必須構成要素ではないと明快に言い切っており、判決要旨も簡潔なものである。特許を出願する者としては、くれぐれも特許請求の範囲をより明確に作成するところに注意を傾ける必要があり、発明の詳細な説明と図面等も、本来、意図した特許請求の範囲に最大限、相応するように整理することが望ましいと言える。

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