知財判例データベース 拒絶決定不服審判請求の審決取消訴訟で、被告人である特許庁長の主張可能範囲に関して説示した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
○○(原告)v. 特許庁長(被告)
事件番号
2008ホ3452
言い渡し日
2009年04月02日
事件の経過
未確認

概要

236

拒絶決定不服審判請求を棄却する審決取消訴訟段階で、特許庁は、審決以前に判断されなかった事項であっても以前の拒絶決定の理由とは異なる新たな拒絶理由でない限り、審決の結論を正当づける事由を主張・立証することができ、審決取消訴訟の法院もこれを異にする特別な事情がない限り、制限なしにこれを審理判断して判決の基礎とすることができる。

事実関係

原告が出願した「折りたたみ式黄疸治療用発光ダイオード光照射装置及び方法」という本件出願発明は比較対象発明1と比べ進歩性がないとして拒絶決定となり特許請求の範囲を補正したものの拒絶決定不服審判においても進歩性がないとして棄却されたため、原告は審決取消訴訟を提起した。この中で原告は、審決取消訴訟で特許庁長である被告が審査及び審判段階で言及していなかった「本件補正発明の放熱部と比較対象発明1の2次冷却チャンネルが実質的に同一である」と主張した点につき、被告のこのような新しい主張は原告に意見提出機会を与えなかった事項について主張するものであるから、違法であるとして争った。

判決内容

法院は「特許庁長である被告が審決取消訴訟に至ってはじめて、意見提出機会を与えなかった新しい事項を主張するのは違法である」という趣旨の原告主張について、拒絶決定不服審判請求を棄却する審決取消訴訟段階で、特許庁は審決で判断されなかった事項であるとしても拒絶決定の理由と異なる新たな拒絶理由でない限り審決の結論を正当づける事由を主張・立証することができ、審決取消訴訟の法院はこれを異にする特別な事情がない限り、制限なしにこれを審理判断し判決の基礎とすることができると説示した。

法院は上記のような法理に基づいて、特許庁審査官は原告に通知した意見提出通知書で本件出願発明の進歩性を否定する先行技術として比較対象発明1を示したが、単に本件出願発明の放熱部に対応する比較対象発明1の構成要素を明確に指摘しなかっただけに過ぎず、被告が本件補正発明の放熱部に対応する比較対象発明1の構成として2次冷却チャンネルを挙げて構成の対応関係を明らかにしたとしても、これを拒絶決定の理由と異なる新たな拒絶理由であるとみることはできず、原告の手続的利益を侵害したとは考えられないとして原告の請求を棄却した。

専門家からのアドバイス

特許審判院が下した審決に対する取消訴訟においてその審理範囲はどこまでになるのかについて、これまで多くの判例を通して論議されてきた。大法院は当事者系事件である無効審判の審決取消訴訟においては、「当事者は審決で判断されなかった処分の違法事由についても主張・立証することができ、法院も特別な事情がない限りこれを審理・判断し判決の基礎とすることができる」(大法院2002年6月25日言渡2000フ1290判決)と判示し、いわゆる無制限説の立場を取っている。反面、決定系(査定系)事件である拒絶決定不服審判の審決取消訴訟においては、「審決取消訴訟では新たな拒絶理由を主張したり新たな証拠を提出することはできない」といういわゆる制限説の立場を取っている。

大法院が新たな拒絶理由としてみなした具体的な事例を挙げてみると、「進歩性否定の根拠として拒絶理由に記載されていない新たな比較対象発明を提示」(大法院1991年7月1日言渡98ホ9871判決)したり、「進歩性が問題となった事案で新規性がないことを新たな拒絶理由として追加」(大法院2002年11月26日言渡2000フ1177判決)することなどがある。本件においても、特許庁長である被告が以前の拒絶理由で提示した比較対象発明の一部構成と本件補正発明の一部構成が実質的に同一であると審査・審判段階よりもさらに具体的に対応関係を指摘する主張を審決取消訴訟で新たに開示したとしてもこれは新たな拒絶理由を追加したわけでないと判断しており、これまでの大法院の法理に倣ったものである。出願人としては、特許庁が提示する拒絶理由が詳しく具体的に記載されていなくても、拒絶理由の具体的な内容をきちんと把握し適切な補正を行ない意見を開陳していく必要があると言える。

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