知財判例データベース 著作物の最初発生国が外国である外国人著作物に関する著作権侵害が国内で問題になった場合、保護国法主義によりその準拠法は韓国法になると説示した事例

基本情報

区分
著作権
判断主体
ソウル北部地方法院
当事者
○○(原告)v. 株式会社ボンダッチコリア他2人(被告)
事件番号
2008ガ合3187
言い渡し日
2008年11月27日
事件の経過
上訴

概要

232

米国と韓国が加入しているベルヌ協約が保護国法主義を採択しており、国際司法第24条は「知的財産権の保護はその侵害地法による」と規定しているところ、ここで知的財産権の保護と関連し保護国法が適用される範囲はベルヌ協約第5条第2項規定上の「権利保護の範囲」、「権利救済の方法」だけに限定されるのではなく、各保護国が著作権者の特定問題を著作権の存否及び内容と関連して統一的に解釈適用する必要があり、そのようにすることが各同盟国が自国の領土内で管轄法廷地と一致するであろう保護国法を簡便に適用することにより内国民待遇による保護を与えるのにも容易な点に照らしてみれば、ベルヌ協約で明示的に本国法によるよう規定していない以上、国際司法第24条を広く解釈し知的財産権の成立、移転など全般に関して保護国法主義の原則を採択したものと解釈するのが相当である。

事実関係

図形と図形的変形が加味された文字が結合されてなされた応用美術著作物(以下「本件著作物」)の著作権者が死亡した後、故人の著作権などを相続した相続人らは、2000年頃に本件著作物の著作権を含んだ一切の知的財産権をAに譲渡する契約を締結したにもかかわらず(以下「本件第1譲渡契約」)、一方で2005年頃には原告に上記の故人の著作権などと関連して一切の権利を譲渡する契約を締結した(以下「本件第2譲渡契約」)。Aは本件著作物に関する著作権登録を国内外で行なっていなかったが、原告は2007年頃国内で本件著作物に関する著作権譲渡登録を終えた。一方、被告らは上記の応用美術著作物のうち、図形的変形が加味された文字部分となった標章(以下「本件標章」)を衣類などの商品に付して販売し、これに対して原告は被告らの行為が原告の著作権を侵害すると主張して本件標章の使用禁止を請求した。しかし、被告は原告の著作権取得の基準になる準拠法は著作物の最初発生国の米国法人であって、米国法によれば原告が本件第2譲渡契約を締結した当時、相続人らは本件第1譲渡契約を締結し代金を全て支払われたことにより本件著作権を既に喪失した状態であるから、原告は無権利者から著作権を譲り受けたものとなると主張した。

判決内容

法院は本事件の準拠法に関して、本件著作物の最初の発生国(本国)である米国と、原告が本件著作権の保護を求める国家(保護国)である韓国は共に著作物保護のためのベルヌ協約の加入国であり、本件著作物はベルヌ協約上の応用美術著作物であって、ベルヌ協約第5条第1項 は内国民待遇の原則を規定し、第5条第2項 は保護国法主義を規定しており、韓国はベルヌ協約で採択した保護国法主義を国内法に明文化して国際司法第24条で「知的財産権の保護はその侵害地方法院による」と規定していることを先ず説示した。さらに、法院はベルヌ協約の第5条第2項には「権利保護の範囲」、「権利救済の方法」だけ規定されており、国際司法第24条は知的財産権を侵害する場合だけが規定されて著作権者の特定や著作権の譲渡性等に対しても保護国法を適用するかが問題となり得るが、著作権者の特定などの問題を本国法によるとなると先ず本国法を定めること自体が容易ではないだけではなく、同じ領土内でも著作物の本国がどこかによって著作権侵害の判断や著作権者特定の結論が変わり、著作物利用者や法院などがこれを判断したり適用しにくくなる反面、著作権者の特定問題は著作権の存否及び内容と密接に結びついており、各保護国がこれを統一的に解釈適用する必要があり、そのようにすることが各同盟国が自国の領土内で管轄法廷地と一致するであろう保護国法を簡便に適用することにより内国民待遇による保護を与えるのにも容易な点に照らしてみれば、国際協約で明示的に本国法によるように規定しない以上、著作権者の決定や権利の成立、消滅、譲渡など知的財産権に関する一切の問題を保護国法によって決定することが妥当であり、韓国国際司法第24条が知的財産権に関するあらゆる分野に関して保護国法主義を明示せず、知的財産権侵害の場合だけを規定しているとしても、これを広く解釈して知的財産権の成立、移転など全般に関して保護国法主義の原則を採択したものと解釈するのが相当であると判示した。その結果、法院は原告が著作権譲渡登録に関してより緩和された要件を要求する韓国法により著作権譲渡を適法に登録した以上、そのような登録をしない本件第1譲渡契約の存在だけを理由として被告らの主張のように原告が無権利者から権利を譲り受けたものではないと判断し原告の請求を認容した。

専門家からのアドバイス

知的財産権と関連した争いでその準拠法に関する明確な合意がない場合、準拠法はどこの国のものとするのかがしばしば問題になる。もちろん特許権などのように登録を要する権利の場合は属地主義の原則上、その登録国家の法律により権利を行使することができるのは容易に理解されるが、著作権のように権利発生に特別な審査や登録を要しない権利を行使しようとする場合には準拠法に関する争いが起こりうる。これと関連して、国際司法が「知的財産権の保護」だけを規定しており、ベルヌ協約第5条第2項も「権利保護の範囲」、「権利救済の方法」だけを規定しているため、本事件のように著作権者の特定、著作権の譲渡などの問題については著作物が発生した本国法に従わなければならないのではないかという疑問が生じうる。これに対し、一審の地方法院は本国法に従う場合に発生する問題点、保護国法に従う場合の妥当性、国際司法の立法趣旨などを総合的に示し、著作権者の特定、著作権の譲渡などの問題も保護国法により解決されなければならないと判断したわけである。まだ上級法院の判断が下されているわけではないが、今後類似の紛争においてもかなり参考とされるのではないかと思われる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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