知財判例データベース 職務発明に関する役員の特許を受けることができる権利が侵害された場合にその役員が被った財産上の損害額算定に関して説示した事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- ○○(原告)v. 株式会社韓国アンゴラ産業他1(被告)
- 事件番号
- 2007ダ37370
- 言い渡し日
- 2008年12月24日
- 事件の経過
- 破棄差し戻し
概要
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職務発明に関する役員の特許を受けることができる権利が侵害された場合にその役員が被った財産上の損害額算定に関して説示した事例
事実関係
被告1の会社に勤めていた原告は、被告1の代表理事である被告2と共同で本件発明をしたが、被告2が共同発明者である原告との契約などにより特許を受ける権利を適法に取得せず、意図的に原告を排除したまま本件発明を自身の単独発明として出願した。その後、原告は被告2との不和により退社し、さらにその後本件発明は特許登録となった。一方、被告1の会社は第三者に本件特許に対する通常実施権を設定しその代価として一定額の実施料を受け取ってきた。これに対して原告は、被告を相手に不法行為による損害賠償などを請求し、原審が特許法第128条第2項を類推適用して被告らに第三者から支払われた実施料のうち、原告が寄与した部分だけの金額を支払えと判断したところ、被告らはこれを不服とし大法院に上告した。
判決内容
法院は、本件発明が旧特許法(2006年3月3日法律第7869号により改正される前のもの)上の職務発明に該当すると述べた後、被告らが原告の特許を受けることができる権利を適法に継承せず、旧特許法上の正当な補償もしなかった状態で原告を排除したまま被告2を発明者として被告1の会社名義の特許登録を済ませたことは原告の特許を受けることができる権利を侵害したものと判断した。
そして、具体的な損害額算定と関連し、原審は登録された特許権又は専用実施権の侵害行為による損害賠償額の算定に関する特許法第128条第2項を類推適用し特許登録を済ませた共同発明者らの一部が得た利益を損害額の基礎として、これに原告の寄与度に相応する割合を乗じた金額を損害額と算定した。
しかし大法院は、本件で原告が被った財産上の損害とは、旧特許法第40条の規定により受けることができた正当な補償金の相当額であり、その額は職務発明制度とその補償に関する法令の趣旨を参酌し、当事者間の関係、特許を受けることができる権利を侵害した経緯、本件発明の客観的技術的価値、類似の代替技術の存否、被告1の会社が得た利益、原告が貢献した程度、過去の補償金の支払い例、本件特許の利用形態などあらゆる間接事実を総合して決めるのが相当であり、原審のように判断するものではないと判示し、原審を破棄し事件を原審に差し戻した。
専門家からのアドバイス
従業員の職務発明に対する補償問題はたびたび社会的問題として注目を集めてきており、特に従業員にどの程度の補償が支払われなければならないのかが論議されてきた。これと関連し旧特許法は、使用者が、従業員が考案した職務発明に対する特許を受けることができる権利などを継承した場合、従業員が正当な補償を要求する権利を認める一方、補償額を決定するにあたっては「その発明により使用者などが得る利益の額とその発明の完成に使用者及び従業員などが貢献した程度を考慮しなければならない」という原則的な基準を規定してはいるものの、実際の紛争事件でどのような事情を考慮してどれだけの補償額を認めなければならないのかは依然として難しい問題として残っていた。
本事件での原審は共同発明者である被告1の会社が通常実施権料相当の利益を得ている点に着眼し、補償額算定に関する「使用者が得る利益の額」をその通常実施権料の相当額とみて、ここに原告の寄与度に相当する金額を原告が支払われなければならない正当な補償額と見た。しかし、大法院は職務発明に関する特許を受ける権利を侵害した場合、従業員に発生する損害は旧特許法によって受けることができた正当な補償金であるという理由を挙げ、その具体的な金額は旧特許法が規定している様々な事情を総合的に考慮し法院が判断する事項であって、単純に特許権などの侵害による損害額の立証を簡便にするために規定された損害賠償額推定の規定を類推適用するものではないと判示したのである。
万一、原審の判断にそのまま従う場合、正当な補償を既に受けた従業員であっても後日使用者が実施権の設定などで莫大な実施料などを得た場合、それに対して具体的な他の事情に対する考慮なしに追加的な補償を要求できることになるという問題が起こり得るから、大法院の上記のような判断は妥当であると見られる。一方、現在職務発明に関する条文は2007年8月3日から特許法ではなく発明振興法により規律されているところ、発明振興法は職務発明に対する補償が合理的な手続きによったものと認められる場合、その補償は法律が認める正当なものと見なしている 。
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