知財判例データベース 特許請求の範囲から意識的に除外された発明に対して禁反言の原則を適用した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
ユナイテッドカラーマニュファクチャリング、インコーポレーテッド(原告、上告人)v. オリエント化学株式会社(被告、被上告人)
事件番号
2006ダ35308
言い渡し日
2008年04月10日
事件の経過
確定

概要

203

特許出願人が特許庁の審査官から記載不備及び進歩性の欠如を理由とした拒絶理由通知を受けて、拒絶決定を回避するために原出願の特許請求の範囲を限定する補正をする際に、原出願の発明のうち一部を別個の発明として分割出願した場合、この分割出願された発明は特別な事情がない限り補正された発明の保護範囲から意識的に除外されたものとみなければならない。

事実関係

特許権者である原告が被告を相手取って均等論に基づく侵害差止を主張したところ、被告は、原告の特許発明に関する出願経過を見れば、原告が審査官の拒絶理由を克服するために化合物に関する特許請求の範囲を減縮する補正をする際、残りの化合物を分割出願しているため、この分割出願された化合物に属する自分の製品は禁反言の原則上、原告の特許権の保護範囲に属さず侵害が成立しないとして反論した。

判決内容

法院は、特許発明と対比対象になる製品(以下「対象製品」という)が特許発明と均等関係において特許発明の保護範囲に属するかどうかを判断するに当たって、特許出願人ないし特許権者がその出願過程等で対象製品を特許請求の範囲から意識的に除外したと見ることができる場合には、その対象製品が特許発明の保護範囲に属すると主張することは禁反言の原則に違背するので許容されず、また、特許発明の出願過程で対象製品が特許請求の範囲から意識的に除外されたものに該当するかどうかは明細書だけでなく出願から特許となるまでに特許庁審査官が提示した見解及び特許出願人が審査過程で提出した補正書と意見書等に示された出願人の意図等を参酌して判断しなければならないと説示した。そして、原告の特許発明に関する出願過程における特許庁審査官の拒絶理由通知の内容、原告のこれに対応した補正書と意見書の内容、原告が本件出願発明から本件化合物を除いた残りの化合物に関する部分を分割出願した経緯等を参酌すれば、原告は審査官から拒絶理由通知を受けて先行技術を回避して明細書の記載要件を満たすために、本件出願発明の化合物を本件化合物に減縮する補正をし、これを除いた残りの化合物を別個の発明に分割出願することにより、これらを本件特許発明の特許請求の範囲から意識的に除外したものとみるのが相当であるので、上記の分割出願された化合物に属する被告の対象製品は、原告の特許発明の保護範囲に属さないと判断した。

専門家からのアドバイス

均等論は、発明の技術的思想を特許請求の範囲に漏れなく記載することが現実的に困難で、些細な構成の変更により発明の保護範囲を回避しようとする者を放置することは、正義と公平の理念に合わない点等を考慮し、特許権者を保護し、現実的妥当性をもたせるために発展した理論である。既に多くの事例の蓄積を通じて確立された均等論法理によれば、均等論が適用されるためには「特許発明が出願手続を通じて確認対象発明の構成要素が特許請求の範囲から意識的に除外される等の事情」がないことが要求される。すなわち、この消極的要件が、均等論の適用による無制限の拡張解釈を抑制するための包袋禁反言の原則(File Wrapper Estoppel)または出願経過参酌の原則(Prosecution History Estoppel)である。つまり、特許発明の保護範囲を解釈するに当たって、均等論と禁反言の原則が相互補完する関係にあると言える。

ところで、審査官の拒絶理由の通知を受けた出願人が、将来登録された後に初めて問題になり得る均等論と禁反言の原則を出願段階から予め考慮することは容易ではない。出願過程にあっては、可能な限り早く審査官の拒絶理由を克服して出願発明を登録させるのが目前の課題であるからである。しかし、もっぱら登録だけのために深思熟考しない補正を行ってしまうと、登録後にいざ特許権を行使するときになって、本件で生じたような問題が発生することがある。従って、出願人としては非常に重要な特許発明の場合には、専門家と相談して出願過程から登録以後の状況を考慮した慎重な手続を進めることが大事であり、特に拒絶理由克服のために分割出願をする場合は、本来意図した権利範囲と分割後に原出願発明及び分割出願された発明による権利範囲の間に看過できない重要な差はないか等を十分に検討することが必要であるといえる。

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