知財判例データベース 翻訳著作物の実質的類似性の判断方法及び独占的翻訳出版権者の著作権者代位のための保全の必要性に関して判断した事例

基本情報

区分
著作権
判断主体
大法院
当事者
○○(原告)v.○○(被告)
事件番号
2005ダ44138
言い渡し日
2007年03月29日
事件の経過
確定

概要

167

  1. 翻訳著作物の創作性は、翻訳者の創意と精神的努力が宿った部分にあるものであり、その翻訳著作物に現れた事件の展開、具体的なあらすじ、登場人物の性格と相互関係、背景設定などは翻訳著作物の創作的表現であると言えないため、翻訳著作権の侵害如何を判断するために翻訳著作物と対象著作物間に実質的類似性があるかどうかのを判断においては、翻訳著作物の創作的な表現に該当することだけを持って対比しなければならない。
  2. 著作権者との利用許諾契約により取得する独占的翻訳出版権は独占的に原著作物を翻訳し出版することを内容とする債権的権利であるため、第三者が作成した著作物が原著作物の翻訳物であると見られない時は、独占的翻訳出版権者が著作権者を代位しその第三者を相手取って侵害停止などを求める保全の必要性があると言えない。

事実関係

原告は、「ロバの耳」という題号のフランス語原作小説の著作権者と原作に忠実且つ正確に翻訳すると約定し、利用許諾契約の一種である独占的翻訳出版契約を締結して韓国語に翻訳した本件小説を出版した。その後、被告が上記のフランス語原作小説と類似の対象童話を出版したところ、これに対して原告は両著作物間に実質的類似性があり本件小説に対する翻訳著作権が侵害されたことを理由に、併せて独占的翻訳出版権に基づいて原作小説の著作権者を代位し、本件著作権侵害停止請求の訴えを提起した。

判決内容

  1. 翻訳著作物の創作性は、原著作物を言語体系が異なる国の言語に表現するための適切な語彙と構文の選択及び配列、文章の長短及び叙述の順序、原著作物に対する忠実度、文体、語調及び語感の調節など翻訳者の創意と精神的努力が宿った部分にあるものであり、その翻訳著作物に現れた事件の展開、具体的なあらすじ、登場人物の性格と相互関係、背景設定などは場合によって原著作物の創作的表現に該当し得ることはさておいても、翻訳著作物の創作的表現であると言えないため、翻訳著作権の侵害如何を判断するために翻訳著作物と対象著作物間に実質的類似性があるかどうかの判断においては、上記のような翻訳著作物の創作的な表現に該当することだけをもって対比しなければならない。

    また、対象著作物が既存の著作物に基づいて作成されたかどうかと両著作物間に実質的類似性があるかどうかは互いに別個の判断であって、前者の判断には後者の判断と異なり著作権法によって保護される表現だけでなく著作権法によって保護されない表現などが類似しているかどうかも共に参酌され得るため、対象童話が本件小説に基づいて作成されたかどうかの判断において著作権法により保護されない表現などの類似性を参酌できるとして両著作物間の実質的類似性如何の判断においても同一に上記のような部分などの類似性を参酌しなければならないものではない。

    本件小説の個々の翻訳の表現を構成している語彙や構文と部分的に類似に見える語彙や構文が対象童話で時々発見されるが、そのような事情だけで直ちに本件小説と対象童話の間に実質的類似性があったり本件小説に対する翻訳著作権が侵害されたりしたとは断定できず、その実質的類似性を認めるためには対象童話で類似語彙や構文が使われた結果、本件小説が翻訳著作物として持つ創作的特性が対象童話で感知される程に至ったという点が認められなければならない。

    しかし、本件小説と対象童話で一部類似語彙や構文が占める質的あるいは量的比重は僅かであり、本件小説は社会批判小説として青少年層を読者層とする反面、対象童話は乳幼児童話として児童などを読者層としており、その結果類似語彙や構文などが配列された順序や位置、その類似語彙や構文が挿入された全体の文章や分段の構成、文体、語調及び語感などで相当な差が見られるため、本件小説が翻訳著作物として持つ創作的特性が対象童話で感知されるとは見難い。従って本件小説と対象童話の間に実質的類似性があるとは言えない。

  2. 著作権者と著作物に関して独占的利用許諾契約を締結した者は、自身の権利を保全するために必要な範囲内で著作権者を代位し著作権法第91条に基づいた侵害差止請求権などを行使することができると言えるが、著作権者との利用許諾契約により取得する独占的翻訳出版権は、独占的に原著作物を翻訳し出版することを内容とする債権的権利であるため、第三者が作成した著作物が原著作物の翻訳物であると見られない時は、独占的翻訳出版権者が著作権者を代位しその第三者を相手取って侵害停止などを求める保全の必要性があると言えない。

    ところが、対象童話はフランス原作小説の分量を大幅に縮小し登場人物と逸話の数、具体的なあらすじの細部展開などを減らしたり単純化し、登場人物の職業と細部的な性格及び背景設定などを異ならせその主題と結末を変える等の相当な変更を加えた結果、対象童話がフランス語原作小説の翻案物に該当するかどうかは別論としてその翻訳物であるとは到底見られないため、原告がフランス語原作小説の著作権者を代位し対象童話の複製、配布などの禁止などを求める保全の必要性があるとは言えず、本件債権者代位請求部分の訴えは不適法である。

専門家からのアドバイス

著作権法は翻訳物を著作物として例示してはいないが、語文著作物の一つとして著作権法により保護され得るのは当然である。しかし、翻訳物自体の著作権を主張できる部分は上記の判示でのように原著作物に見られない創作的表現に限定される。また、翻訳出版権者が原著作者を代位し権利行使をすることにおいても対象著作物が翻訳の程度を越えた場合、代位権行使のための保全の必要性は認められない。このような点を考慮すると、翻訳出版権者は原著作者と契約を締結する時、翻訳出版権者の権利を侵害する一定の状況が発生した場合、原著作者が翻訳出版権者の利益を保護するために訴訟を提起する義務を賦課する条項を設ける等の方策を予め確保しおくことを積極的に考慮してみる必要がある。

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